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第2話 実験
「アーーールーーー!!!!」
スパァンッ、と。
勢いよく横にスライドした扉が、バン、と音を立てて反対側に当たる。跳ね返ってきたそれをミルダは小さな手でパシっと受け止めると、仁王立ちのまま室内に目を向けた。
すると。
「ミルダさん?」
探すまでもなく、アルフェルノアはそこにいた。
きっちりと襟までボタンを留めたシャツに、窮屈そうな猫背。手帳を手に振り返った彼は、眼鏡にかかるミルクティー色の前髪を避けながら驚いた顔でミルダを見ていた。
奥に覗く紅玉の瞳がいかにも「予想外です」と言いたげに丸くなっていて、それがさらにミルダの苛立ちを増幅させる。
「なにその反応! 昨日またねって言ったじゃん!」
「言われましたけど、その……」
「なに?」
「……明日も付き合ってくれるっていうのが僕の盛大な思い違いだったらどうしようかと考えてしまって……もし声をかけてそんなつもりじゃなかったとか言われたら、とても立ち直れないというか、なんというか……」
「なに言ってんの? もう」
「それより、よくここがわかりましたね?」
「まーね! 昨日外壁と地下は調べたし、魔法薬学保管庫のある廊下には入れないから、あとは真上だけでしょ?」
そこは教室のような場所だった。
と言っても、教室として使われてないのは一目でわかる。
机や椅子は教室の端に重ねて積み上げられていたし、古そうな箒や教材なんかが床に一纏めに置かれていて、なかば物置と化しているようだった。
そこかしこにうっすら積もった埃を見てつい、ここは長年使われていなかった——なんて結論に達しそうになるが、魔法使いの世界ではあながちそうとも言い切れない。
その気になれば魔法で部屋全体に埃を撒くことだってできる。
それを考慮するなら、地道に可能性を潰すアルフェルノアの調査もあながち間違っていないのでは、とミルダは思った。
「で、どう? 入れそうなとこあった?」
「ねぇな」
突然、横に積まれていた机がガタリと揺れる。
その下から這い出るように姿を見せたのはグレイだった。
きっと床をくまなく調べたのだろう。グレイが埃まみれの制服をパンパンと手で払うと、口元を袖で覆ったミルダが思わず抗議の声をあげた。
「ちょっと、撒き散らさないでよ」
「仕方ねえだろ」
「結界上部も抜けはなし、ですか。グレイさん、ありがとうございました」
「じゃあ終わり? せっかく来たのに」
「いえ、調べることはまだあります。決闘防止システムとか……」
「あー、ちゃんと動いてたら殺人なんて起こんないもんね」
「けっとうぼうしシステム……?」
「え?」
アルフェルノアとミルダが振り返る。すると、グレイが鋭さを欠いた三白眼で見返していた。
新緑の瞳がぱちぱちと不思議そうに瞬きをするのを見て、ふたりは、あー……と何かを納得した様子で頷いた。
「グレイっていい子なんだね」
「前なら意外って思うところですけど、今はわかる気がします」
「話が見えねぇよ」
「ここは実際に体験したほうがはやいかな?」
そういうと、こっちこっち!と。
ミルダは両手でグレイの手首を掴み、教室のひらけた場所までやって来る。
何が起こるのかとグレイが見ていると、ミルダは突然。
「おい」
ファイティングポーズを決めた。
しかも単なる格好の問題ではない。重心を低くし、固めた拳を後ろに引いたその姿は本気で殴りかかる寸前に見えた。
だからつい、グレイも身構えそうになったのだが。
「まあいーから。そのまま立っててよ。本気でやんないと意味ないし」
「だからどういう」
「避けないでよね。いくよ!」
ミルダがぐっと拳を引き直した瞬間、グレイは本気で殴られると確信する。
けど、避けるなとも言われている。従う義理があるかといえばないが、少しの葛藤の果てにグレイは身を固めて目を瞑った。
——が、すぐに目を開くことになる。
なぜなら、この閉め切った教室のなかで急に、自分の体の横を風が吹き抜けていくのを感じたからだ。
だからグレイは、半ば反射的に目を開いた。すると。
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