第6話 透過の魔法

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第6話 透過の魔法

「俺はもう、魔法は極力使わねぇって決めたんだ」 「え?」 「もういいか?」 「あ……いえ待ってください!!」  一瞬重い雰囲気に押し流されそうになるが、アルフェルノアは慌ててグレイを呼び止める。 「どうして使わないってことにしたんですか?」 「そいつは……」  そのまま、グレイは黙ってしまった。  それでアルフェルノアもどうしていいかわからず、ただその場に立ち尽くす。  膠着(こうちゃく)した場を動かしたのは、ミルダだった。 「ねーグレイ。魔法を使った場合のデメリットって、なんだと思ってんの?」 「……危ねぇだろ。誰かを傷つけるとか」 「ふーん。じゃあアルフェスモア」 「アルフェルノアです」 「グレイに何を手伝ってもらいたいの?」 「それは……魔法薬学保管庫の下を調べてもらいたいんです」 「下?」 「はい。外の外壁なら僕でも調べられますが、地下となると話は別です。だから透過の魔法を使って、地面の下に潜って調べてきて欲しいんです」 「それは、自分に魔法をかけるってことか?」 「はい」  グレイは目を閉じて少しの間考えているようだったが、やがて目を開けると、表情をやわらげて言った。 「わかった。なら手伝ってやるよ」 「ほんとですか!?」 「やったじゃーん!」  それで。  アルフェルノアたちはさっそく、例の魔法薬学保管庫と接している外壁の前に戻ってきた。  白亜の外壁は、変わらず太陽を照り返し輝いている。  グレイを真ん中に、3人が壁の前に頭をつきあわせるように座りこむと、アルフェルノアが口を開いた。 「それで、透過の魔法はもう習ってますよね?」 「ああ。コインを透過して、紙にすり抜けさせるやつだろ?」 「授業だと、ぼくらが今できるのはその程度って話だったよね?」 「ええ。透過の魔法では質量と幅。ふたつの要素をクリアする必要がありますから。でもグレイさんの魔力なら……」  透過の魔法は、透過すればどこまでもすり抜けられるというわけじゃない。  どの程度の質量のものを透過させられるか。  そしてどの程度の幅をすり抜けられるかは、その魔法使いの技量とセンス、そして魔力にかかっているのだ。  術者自身を透過させて地面に潜るという芸当は、本来であればかなり修行を積まないとできない。  けどそこをグレイの膨大(ぼうだい)な魔力で押し切ってしまおうというのが、アルフェルノアの作戦だった。 「では、お願いします」  アルフェルノアとミルダが見守るなか、グレイは地面に手を当てると、そっと目を閉じた。  どんな魔法にも共通して言えることだが、魔法の成就(じょうじゅ)にはイメージが重要だ。  呪文を唱える前に、まずは魔法が成功した時のイメージを思い浮かべる。  形なき炎を、水を形作る。  人の手では到底動かせない岩を動かす。  そのイメージをどこまで()れるかによって、魔法の精度が変わってくる。  グレイは手のひらにある芝生と土の感触に、どのようなイメージを持たせればいいか思いを巡らせた。 (地面に潜る……潜れるってことは)  今よりもっと、地面は柔らかく感じるはず。  ぬかるみ、ばしゃりと体が埋もれていくように。  深く、深く沈みこむ。  まるで。  沼に足を踏み入れたように。 「トランスパランス(透過せよ)——うぉ!?」
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