新宿

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新宿

 今から数十年近く昔、母親と新宿へ行った時にガード下で空き缶を置き「右や左の旦那様〜」と言いながら道行く人々にお金を貰う乞食がいた。  「お母さん、あの人は何であんな風にしてお金を貰っているの?恥ずかしく無いのかな?」 と私が母親に聞くと母親が  「お前ね、あの人達はああいう芸を見せてお金を貰う芸人なんだよ。普通の人がアレをやっても誰もお金なんて貰えないよ。それにね人に寄ってはお金と一緒に悪い物を一緒に捨てて厄を払ってる人も居るんだよ。乞食と言った人達は本当は持衰(じさい)と言って代々災厄をその身に取り込んで人々を護る事を生業にしているそんな人達なんだよ。だからあの人達を馬鹿にしてはいけないよ?それとね。無闇に落ちているお金も拾っちゃダメだからね。悪い物をお金に付けて道に撒いて人に拾わせて厄を払うやり方もあるんだから」 まだ小さかった私は何だか解らないけれども      「ふーん、そうなんだ」と言って納得した風にその場を後にした。  新宿西口近くを歩いていると、募金の箱を持って 「恵まれない子供への募金をお願いしまーす」 と言う高校生くらいの女の子が立って居た。 丁度、先程やった仕事で得た気持ちの良くない金が懐に有ったので、全額募金箱の上にポンっと分厚い封筒ごと置いて、そのまま歩き去ろうとしていたら  「ウワッ!物凄く筋の悪そうなお金!お兄さん、こんなもん募金の女の子に押し付けて行くなんて、あんまりじゃあ無いの?ちょっと一緒に着いてきて」 笑顔だけど、目が笑っていない顔をして俺の手首を掴みガード下の方に引っ張って行く。  ガード下から少し離れた路地裏の珈琲屋に連れて行かれ店内に入ると  「大婆ちゃん!コレ見て!」 と封筒に入った現金、三百万円をテーブル席に座ってサンドイッチを食べようとしていた老婆にの眼前に差し出した。 封筒に入った現金を見た老婆が  「ゲッ、何て嫌な気配がする金を持って来るんだい!!この曾孫は?」 と老婆が苦い顔をすると、ウンウンと頷きながら  「そうでしょ?筋が悪そうでしょ?このお金」 と女の子が言い俺を指差し  「このお兄さん、このお金を募金箱の上にポンと置いて、そのままスタスタ行ってしまおうとしたから此処へ引っ張って来たのよ」 俺の顔をマジマジと見た老婆は  「訳ありそうな兄さんだねぇ、うーん、こんだけの金額、一度に処理するのは骨だね。三分の一づつ束から抜き取ってばら撒くか‥‥」 スマホを取り出してLINEでメッセージを送信する。  「あゆみ、この兄さんに珈琲を淹れてあげな、兄さん珈琲、大丈夫かい?」 そう聞かれた俺は、無言で頷き老婆の正面の椅子に腰掛ける。 すると店のドアが開き、長い髪を後ろで束ねたイケメンが入って来た。 手早く、札束から三分の一ずつ老婆が金を抜き取り  「コレ、撒いて来な」 とイケメンに渡す。 凄く嫌な物を持つ様に金を受け取ったイケメンは、急いで店を出て行った。  そんな彼を見送りながら俺は  「持衰と厄を祓う金撒き」 と呟く。 俺の呟きを聞いた老婆は、眼を大きく開き曾孫を見ながら  「今時、持衰や金撒きを知る人が居るとは‥‥あゆみ、お前、偉い人を連れてきたねぇ」
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