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猫又の過去
「なんだこいつ。前足が片方ねぇ! おいみんな来てみろよ! おもしれぇぞ! 」
まだ生身の子猫だった猫又は、右前足が生まれつき欠損した状態で生まれてきた。親猫から見捨てられ、ゴミをあさって過ごす日々だった。
そんなある日の夕方、不良たちに目をつけられたのだ。
「え? ホントだ! なにコレ! 」
「ウケるわ、なにコイツ? 」
首根っこを鷲掴みにされ、リーダー格の男に持ち上げられた。そして取り巻きたちに写真を取られ、笑われた。
「見てみろよこいつ! よく見たら片目も見えてねぇし、傷だらけだぜ! 」
「うわ、きったねぇ......」
「捨てろよそんなの」
リーダー格の男は、ある残虐な提案をした。
「あ、この前買ったガスガンさぁ、こいつに当てて遊ぼうぜ! 」
「あそれいいね! やろやろ! 」
不良たちはそのまま近所の公園へと歩いていった。その道中も、キャッチボールのように投げられ、乱雑に振り回された。
「よし、着いたな。じゃやるか」
適当に投げ捨てられ、不良たちは離れたところからガスガンを構えた。
足が一本ないのも関係しているが、道中で疲弊していたので、逃げる気力はなかった。
「オラッ、オラッ、オラッ」
「外れー。下手かよぉ」
「チッ、うるせぇよ! 次は......オラッ! 」
4発目の弾が腹部に命中した。それは激しい痛みを伴い、内出血を引き起こした。
「お、コツ掴んだ」
それから連続で3発が命中した。もう瀕死に近い状態であった。
「あー飽きた。アレどーしよ」
「そのままにしといたら? 」
「それじゃ面白くねぇじゃん......あっ、いいこと思いついた」
リーダー格の男は再び首根っこを掴み、どこかへ連れて行った。
やがて男は、川に到着した。
「おお、結構深いのな」
川岸のコンクリートにしゃがみ込み、水の中をじっくりと見た。
「よーし、これで......オラッ! 」
男は子猫を持ったまま水に沈めた。小さな気泡がブクブクと浮いてくる。
気泡が少なくなってくると、男は子猫を引き上げた。
「......お、生きてる。よしじゃあもう一回」
再び水の中に子猫を沈めた。これを何度も何度も繰り返し、子猫は衰弱しきっていた。
「ふー、もう飽きた。バイバイ」
最後はあっけなく川に投げ落とした。子猫は暴れる気力も残っておらず、静かに川の底に沈んでいった。
「どっかメシ食い行かね? 」
「あー、バーガーとか? 」
「それはナイス提案すぎ」
不良たちは暗くなった町の中を通り、ファストフード店へ向かった。
店に着いて注文を一通り終わらせたが、店内には不良たち以外に客はおらず、貸し切り状態だった。
「お! 貸し切りじゃーん! 」
「あ、久々にあれやろうぜ。イス積み上げるやつ」
「うっし、今日は俺が一番高く積むからな」
なんとも低俗な遊びをしようとしていたところ、不良たちの番号が呼ばれた。
「お、はや」
「取り行くか」
カラフルな紙に包まれたハンバーガーが乗ったトレーを受け取り、席に着いた。
「あー腹減った」
「さーてと、食いますか」
紙を開いてかぶりつこうとすると、不良の一人が叫び声をあげた。
「うわぁあああああッ!! 」
「うるさッ! なんだよ! 」
その不良は自分で割ったバーガーの断面図を他の不良たちに見せた。そこには、グチャグチャに切られたドブネズミが挟まれていた。
「えッ!!!? 」
「うえッ、気持ち悪......」
他のバーガーもすべて同じようになっており、不良たちはすぐさま席を立った。
「店員に文句言ってやろうぜ!! 」
「おう、金ぶんどってやろ! 」
レジの前まで来て、そこから見える厨房にバーガーを作っている店員がいるのが見えた。背中を向けている。
「おいッ!! こっちこいッ!! 」
はーい、と店員は不良の前まできた。顔が帽子に隠れて見えない。
「テメェ、どうなってんだここのバーガーはッ!! 」
「帽子被ってんじゃねぇぞッ!! ちゃんとこっち見ろッ!! 」
そう言って無理やり帽子を脱がせると、さっき見たはずの店員の顔が、まるで猫のような顔になっていた。
「なッ!! 」
接客している店員の顔に夢中になっていると、厨房の奥からもう一人の店員が出てきた。
「どうしましたか? 何かご不満がありましたでしょうか」
その店員も、顔が猫のようになっていた。
「うわぁあああああッ!! 」
「な、なんだよお前らッ!! 」
「来んなッ! 来んなッ! 」
不良たちはそれを見るやいなや、出口の扉までダッシュして、ものすごい勢いで外まで走って逃げた。
しばらく走ると少しは落ち着いたようで、お互いに身を寄せるようにして住宅街を歩いていた。帰り道なのだ。
すると、道を照らしていた電灯が点滅し始めた。
「な、なんだ......? 」
何度か点滅を繰り返すと、いつのまにか道の先に人影が出現した。
「......」
それを黙って見ていると、その人影は喋り始めた。
「許さない......許さない......七代先まで呪ってやる......」
よく見るとその人影には、三角の耳と二股の尻尾が生えていた。
「な、なんなんだよ......」
不良たちはいまにも泣きそうな声で嘆いた。
「俺等がなにしたってんだ......」
その言葉に人影は激しい怒りを覚え、自身の鋭い爪で不良たちの腸を引き裂いた。
その日住宅街には、男子高校生たちの悲痛な叫び声が響いたという。
(まずいニャ、このままじゃ......ッ!! )
水面から顔を出すこともできなくなり、水中でもがくだけになってしまった。
この苦しさは例えることができず、猫又が二度と経験したくないと思っていた苦痛である。
しかし、もう猫又の意識は川の流れに散逸しつつあった。
そんな時、水面を突き破り飛び込んできた者がいた。それは、走ってきて息切れをしているはずのラシンだった。
(なん......ニャ? )
ラシンは猫又に手を伸ばし、その細い腕を掴んだ。そして自身の体に手繰り寄せ、抱きかかえながら水面を目指して泳いでいった。
猫又の意識はそこで途絶えた。
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