1話:断罪イベントは蹴り飛ばせ

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1話:断罪イベントは蹴り飛ばせ

「――ではこれより、罪人スザンヌ=ディスコンツェの処刑を始める。彼女の罪はこの炎によって、浄化されることだろう」  嗚呼、ついに始まってしまう。私は指を固く組み、祈るようにして胸元に抱き寄せた。身体を柱に縛り付ける麻縄が痛くて堪らない。祈りの姿勢を取っていないと心が乱れてとても正気ではいられない。何故なら私は今から、火炙りの刑で処刑されるからだ。  広場の中央に設置された処刑台。そこに縛り付けられた私。そしてそんな私を見ている私の()婚約者の男ルエルド殿下とその新しい婚約者エリカ。  そもそも何故私が火刑に処されることになったのか、それは今も王族のために設置された簡易観覧席でこちらを見ているエリカに原因がある。ニヤケ笑いが隠せていない彼女は、ある日突然私とルエルド様の間に現れるとまるで旋風のようにルエルド様の心を射止め、私を婚約者の席から引きずり下ろした。そして、内向的な性格のせいで強く反発出来なかった私は彼女から散々嫌がらせを受けた挙句、その嫌がらせに対して決心を固め恐る恐る異を唱えると全て私が悪いように仕立てあげられ吹聴され、今や誰もが私を“悪女”として疑わない。人前でおどおどとして喋れない私と、ハキハキと明るく活発なエリカ。どちらが愛され信頼されるかなんて一目瞭然だった。今日だって、処刑を見るために広場に集まった誰もが私のことを罪人だと思っている。  決定打になったのは一週間前の婚約発表のパーティーの日だった。本来ならばルエルド殿下の生誕を祝うはずのパーティーだったのに、ルエルド殿下は予定を変更しそのパーティー中に私に婚約破棄を言い渡し、そしてエリカを新しい婚約者に指名した。その後、放心状態で会場を出た私のところにやって来たエリカは私を散々馬鹿にした挙句、私が一番言われたくない言葉を言い放ったのだ。 『あんたって本当に生まれてきた価値無いですよね。誰からも愛されないし誰からも信頼されない。本当に可哀想〜。でも仕方無いよね〜、だってあんたって、穢い売女から生まれた私生児(・・・)だもん』  その時、思わず手が出た。彼女の腕を掴み、それだけは訂正してと叫んだ。  確かに母は貧しい身分の生まれだった。しかし誰よりも慈悲深く、優しく、そして美しい人だった。そんな母のことが大好きだったし、母のことが誇らしかった。それを馬鹿にされ、あまつさえ“穢い売女”なんて蔑まれたことがどうしても許せなかった。  私に腕を掴まれたエリカは、振り払おうとして激しく暴れた。そして、彼女はバランスを崩し二人で仲良く階段下に転がり落ちた。  大きな落下音を聞き集まってきた人々に、私が痛みで何も言えないことを言い事にエリカは『スザンヌがわたしを突き落とそうとした!』と吹聴した。そして一瞬で私は次期皇太子殿下の婚約者を逆恨みで殺そうとしたと汚名を着せられ、今に至る。  私がエリカに嫉妬しエリカを殺そうとした。そういう筋書きとなったらしい。憤ったルエルド殿下は私を火炙りで殺すことに決めた。元婚約者など邪魔なだけだから、殺せる口実が出来て彼も喜ばしかっただろう。
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