1話:断罪イベントは蹴り飛ばせ

2/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 私の家族は元々愛人の間に生まれた上に家督を継げない女の私に興味などなかった。そもそも愛人との間に設けた子供であり、私生児である。屋敷に居場所があるわけが無い。母は屋敷に迎えられたが父親の正妻からの嫌がらせで心を病み、そのまま床に伏して亡くなった。それでも、母亡き後も懸命に私は生きたつもりだった。両親に愛されるために勉強も皇女教育も頑張ったのに、実際家庭教師からは評価してもらえるぐらいに努力をしたのに、両親の関心はいつでも兄に向いている。それでもルエルド殿下の婚約者として利用出来たから、まだ家に置いてもらえた。しかしその唯一の利用価値すら無くなった私は家で完全に居場所を無くし、この処刑に対して両親は私は無関係の子供だと守ろうとすらしてくれなかった。今では無関係だからと、この処刑場にすら来ていないだろう。  こんなことあって堪るものかと、憤ってくれたのは唯一の味方である侍女だけだった。だが彼女も流石に教会が決めた処刑を阻止することは出来なかったらしい。 『絶対に助けます。だからどうかアタシを信じてください。アナタが信じてくれたなら、アタシは神様だって殺してみせます』  最期の面会に現れた彼女は、そう言って檻越しに私の手を強く握った。それだけで充分だった。マリアという名前の侍女はずっとずっと、私のことを信じてくれていた。エリカが現れたのと丁度同じ頃に森で倒れているのを保護し、帰る場所が無いと言うから侍女として屋敷で雇っていたマリアのお陰で、私はエリカから今までどんな暴言を吐かれてもどんな仕打ちをされても耐えられた。マリアは次の職場を見つけられるだろうか。訳ありらしく過去を語ろうとしない彼女の人生に幸あれと願うことが、今私ができる唯一の彼女への恩返しである。 「罪人スザンヌ、最期に贖罪の時間を与えよう。言い残す言葉はあるか」  メラメラと燃える松明を持った聴聞官が、私に問う。私はグッと唇を噛んだ。曇天の空が、益々濁って雲が重なる。 「……私は、誓ってエリカ嬢を虐めたことはございません。卑劣な手で陥れようとしたこともございません。突き落とそうとしたこともありません。エリカ嬢に母を侮辱され、それだけは言わないでくださいと腕を掴んだことは認めます。しかし突き落とそうとなどしておりません。私は——私は母に誓って、無実です」  震える声で、私は最期の弁明をした。どうせ誰も聞いてはくれない。分かってる。最期まで罪を認めないと、心象が悪いのも分かっている。それでも、母を侮辱されたことも濡れ衣を着せられたことも何もかもが許せなかった。だから最期に、一言言いたかった。 「——お慕いしておりました、ルドルフ殿下」  それが最期だった。  聴聞官は「罪深きこの女に救済を!」と叫ぶと、松明の炎を私の足元に敷かれた藁に移そうと近づける。 「——お待ちください!!」  だが現れた。この世界で唯一スザンヌを信用してくれる少女が、広場に現れて聴聞官や司祭様達を睨みつけた。 「マリア……」  思わず、声が零れる。  現れたのはマリアだった。白金(プラチナ)の神を高く結い、黒色のドレスに身を包んだ彼女は見る度に色を変える瞳を赤く染め、「罪なき娘を殺すことが教会の正しい“贖罪”ですか?」と声高らかに叫んだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!