1話:断罪イベントは蹴り飛ばせ

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 涙が頬を伝った。彼女は『絶対に助けます』という約束を守ってくれたのだ。こんなにも嬉しいことがあるだろうか。私は皆から嫌われていたが、それが全てどうでも良くなるほどマリアに愛されていたのだ。それを知れただけで、私は幸せだった。  聴聞官が、何かを喚いた。そして彼は松明を私の足元の藁に投げ捨てる。忽ち燃え上がる炎、市民の悲鳴、状況を理解したエリカの笑い声。  このまま死ぬのだろうと理解した。それでもよかった。最期にマリアが、本当に私のことを愛してくれていたと知れたからもうどうだって良かった。  ポツリと、頬に雫が伝う。一瞬自分の涙かと思ったが、違った。  それは雨だった。鈍色の空からポツリポツリと降り出した雨は、やがて盆をひっくり返した様な豪雨となり、みるみるうちに足元の藁に燃え広がった炎を消してしまった。  皆が言葉を失う。私でさえ何が起こったのか分からなかった。炎が消えたら雨も止んだ。マリアは濡れた前髪を掻き上げ、この場の決定権を持つ司祭様の方を向く。その身体に寄り添うように雪豹のような聖獣が彼女の後ろに立っていた。 「……スザンヌ=ディスコンツェの処刑を取りやめる。これは神の意向である」  司祭様が苦々しく発表した。民衆はまだ混乱したまま、黙って司祭様の話を聞いていた。その中で唯一、マリアだけが、スザンヌの方を振り返り天使のように柔らかな笑みで微笑んだのであった。
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