3話:生き延びましょう、頑張リア

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3話:生き延びましょう、頑張リア

🎀  気付いたら見知らぬ場所にいた。聖愛はそれに戸惑ったが、「なるほど明晰夢」とすぐに理解した。寝落ちしたのか、錬金術の時間無駄にしたわ。そんな後悔を引き摺っているが、やけに夢にしてはリアルである。  聖愛は森と呼ぶに相応しい場所にいた。その青々とした葉の一枚一枚が鮮明に見える程度には、明晰な夢である。時折吹く風が運んでくる青臭い匂いも、夢とは思えないほどリアルだ。木々のざわめきも、どこからかある獣の視線も、ゾッとするほどにリアルだ。  聖愛は右手に慣れ親しんだ感覚があることに気付いた。それはスマートフォンで、聖愛は思わず苦笑する。こんな時でも自分はスマートフォンを手放せないのだなと思いながら、夢の中でもスマートフォンが出てくるとはどれだけスマホ依存症なのだろうと自嘲したりしつつ。  しかし聖愛は、ふと見たスマートフォンの画面に表示された文章に思わず目を見開いた。 【梦視侘聖愛様、おめでとうございます。五体満足で無事にその世界に転移ができたことを心からお祝い申し上げます。  日々聖モンをご愛好いただいております聖愛様に、我々からの感謝の印として聖愛様が心血を注がれて育てられたモンスター全匹をプレゼント致します。  どうぞ、神々の聖獣(セイクレッドモンスター)が存在するこの世界で、聖獣の花嫁として彼等にその身を捧げお過ごしください】 「……なにこれ」  夢の中でこんなにはっきり文章が読めることなんてあるのだろうか。少なくとも聖愛は今まで一度も経験したことがない。  再びゾッとした。スマートフォンのメッセージは溶けるようにじんわりと消え、代わりにスマートフォンのホーム画面が現れる。だがそれは聖愛のスマートフォンのホーム画面では無く、知らないアプリケーションの入ったホーム画面だ。  ホーム画面にはおそらくだが、【検索エンジン】【カメラ】【翻訳】【地図】【音楽再生】【メモ帳】の機能を持ったアプリアイコンが並んでいる。その中で一等目を引いたのは、中央にある図鑑の形をしたアプリアイコンだ。そのアプリアイコンは、聖モンでセイクレッドモンスターの図鑑のイラストとよく似ていた。 「なにこれ、なにこれ……」  分からなくなると、語彙力が減る。聖愛はとりあえず図鑑のアプリをタップしてみる。どうせ夢なのだし、遊んで損は無いだろう。“転移”やら“身を捧げろ”など物騒な言葉が見えたが、どうせ夢なのだから気にしないことにした。  図鑑は聖モンのアプリで見たのと同じ図鑑だ。セイクレッドモンスター達が登録番号順に並べられていて、聖愛はそれにホッとする。だが、その図鑑の中のモンスター達が皆聖愛を見ているような錯覚を覚えて、聖愛は初めてセイクレッドモンスターが恐ろしいと感じた。  訳の分からない夢に気味の悪さを覚えた所で、ガササッと草根を掻き分ける音に聖愛は顔を上げる。そこには、二足歩行で歩く豚がいる。 「……は?」  聖愛が呟くより早く、聖愛を認識した豚はその手に握った棍棒を振り上げると聖愛を思い切り横殴りに殴りつけた。カハッと息が途切れ、聖愛はそのまま吹き飛ばされる。森の中でみっともなく地に伏した聖愛は、おかしいと頭の中で何度も唱えた。  おかしい。こんなのおかしい。痛い、殴られたところがこんなにも痛い。殴られていたのは知ってる。殴られたことがあるから知ってる。バットで殴られたのと同じくらいに痛い。でもどうして痛いの? これは夢じゃないの?  痛みと困惑で動けない聖愛に追撃を食らわせるためにか、豚がゆっくりと此方に歩いてくる。次は殺される。頭を潰される。直感的に感じた。そんなの嫌だ。
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