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おかえり
「っ…ぁ、ん…っ、伊織…っ」
パソコンから流れる動画を見ながら自慰をする、シャワー後のいつも通りのパターン。
今日も変わらず画面の中で爽やかに微笑む岡伊織。
俺、栗田千紘は今日も大人気アイドルの伊織に抱かれる事を想像する。
見るのはいつも同じ動画。
トーク番組のアーカイブで、途中で伊織が、
『今から行くね』
と言うのがとても気に入っていて、俺は奥まった部分に挿れた指で弱い部分を刺激しながら目を瞑る。
『行くね』を『イくね』に頭の中で変換して興奮している俺は…間違いなく変態。
伊織が俺のナカでイくのを想像して、俺も限界に身体を震わせる。
乱れる呼吸と熱い身体を持て余して何度も繰り返しイッて自分を慰める。
推しは男だけど、別に男が好きなわけじゃない。
間違いなく女性が好き。
ただ相手にしてもらない。
27歳でいまだ童貞。
自慰しか性欲を発散する方法がなくて、昂りを扱いて射精する以上の快感があると知り、前立腺開発でナカでイけるようになってからはとにかくドライオーガズムに溺れて、快感に酔うばかり。
相手がいたらこんな虚しい事もしなくなるんだろうけど、たぶん相手なんて一生見つからない。
「…っ、伊織…」
最初は憧れだった。
伊織みたいな爽やかな笑顔が綺麗なイケメンに生まれたかった、そう思っていた。
自慰の時に伊織の出ている動画を流すと快感が増す事に気付き、必ず動画を流すようになった。
うしろで気持ちよくなる事を知った時には、指でこれだけ気持ちいいなら、昂ったものが挿入ったならどんな快感が待っているんだろうと男性の昂りがナカに滑り込んでくる妄想を繰り返した。
そのうち、動画の伊織が言う『行くね』が『イくね』に脳内変換されて、俺のナカで伊織がイこうとしてるという妄想に行きついた。
想像しては興奮して達する。
そんな日々。
玩具に手を出そうかと思ったけれど、なんだか違うような気がして毎回カートに入れては削除している。
俺が願うのは伊織の昂った熱いもので俺の奥までいっぱいになる事。
伊織がよくて、玩具では…言葉にうまくできないけれど、なんか違う気がする。
『今から行くね』
伊織がいつもの言葉を口にする。
ゾクゾクする。
「きて…伊織、っあ…!」
自慰に耽っている時はもう夢中だからいいんだけど、自分のしている事を冷静に考えてみるとめちゃくちゃ気持ち悪いと思う。
わかってるんだけど、やめられない。
「は、あ…あ…」
今日もいっぱいイけて満足。
リピート再生にしている動画を止めようと思ったら、またあの言葉を伊織が言う。
『今から行くね』
「………」
伊織ならどこ行ったって歓迎されるんだろうな。
どんな女性も振り向くし、どんな女性も選び放題。
性欲が満たされなくてうしろを開発してしまうとか絶対ありえない。
「…伊織…」
抱かれてみたい。
俺を好きになってなんて高望みな事は言わないから、ただ抱いて欲しい。
…推しに抱かれるとか最高だし、プラス気持ちいいなんて夢のよう。
「俺に、…会いにきて…」
小さく呟いて軽く目を閉じる。
そして目を開けたら、パソコン画面が飛び出してきて、ぐりぐり動き始める。
なにかが出てこようとしているような感じに、昔観たホラー映画を思い出す。
「!?!?」
15.6インチのノートパソコンの画面のベゼルに引っ掛からないようにもこもことなにか…人のようなものが出てきて、そして机に座った。
「……下なんも履いてないのかよ、なにしてたの」
下半身なにも履いていない俺を見て、“なにか”が言う。
それは俺が言いたい。
出てきたのは全裸の男。
「………」
男って言うか、伊織。
全裸の岡伊織。
「!?!?」
俺はイき過ぎて頭がおかしくなったのかもしれない。
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