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「ふーん」
「……」
「せっかくふたりきりの飲みにOKもらえたと思ったら惚気か…」
「惚気じゃないよ…」
この前の休みの時に思った事とか、常々考えてる事を相談すると、今川くんはビールを飲んで、おつまみのスナック菓子に手を伸ばした。
ここは今川くんの部屋。
今川くんは志築の大学時代からの友人で、たまに三人で飲んだり遊んだりしている…というか志築と俺が出かける時に今川くんがくっついてくる感じ。
志築ほどじゃないけど整った顔立ちで、明るくて人が寄ってくるタイプ。
よく、『たまには知颯抜きで飲もう』って誘われるのを断っていたけど、志築の事を相談できる相手って考えたら今川くんしかいなくて今回OKした。
「知颯はなんて言ってんの?」
「……志築には相談してない」
「なんで?」
「言えないから」
志築に嫌われてしまうかもしれないと考えると怖くてそんな事言えない。
ちびちびビールを飲んでいると、今川くんにじっと顔を見られた。
「? なに?」
「まだ“志築”って呼んでんの?」
「……うん」
ベッドの中でだけ“知颯”って呼べるけど…そんな事、今川くんにも言えない。
「“志築”なんてやめちゃえよ」
「え? でも…」
やっぱり“知颯”は恥ずかしい。
想像しただけでちょっと顔が熱くなる。
「俺にしない?」
「は?」
「俺だったら小野崎をそんな風に悩ませたりしないよ?」
「……」
今川くんだったら…?
そんな事考えた事もない。
だって俺の隣にはいつも志築がいて『透』、『透』って十年近くべったりくっついてて。
それで、『俺の透』って言って…。
「小野崎って放っておけない感じとか、顔もすげー可愛いから、ずっと俺を見て欲しかった」
「え? え…?」
可愛い?
俺が?
顔も??
「いや、志築は高校の時、いきなり俺の事『地味顔』って言ったよ?」
「そんなやつ、ほんとにやめちゃえって」
「あ、えっと、そういう意味じゃなくて…!」
俺、めちゃくちゃ混乱してる。
「小野崎…」
床に押し倒されて、首に今川くんの唇が触れてぞわっと鳥肌が立つ。
逃げたいのに全然逃げられない。
力が全く敵わない。
なに、この状況。
トレーナーの中に手が入ってきて、肌に直接触れられる。
まずい、このままじゃ…と思って身体を捩ろうにも全然だめだった。
このまま今川くんに抱かれちゃうのかと思ったら怖くて怖くて、でも志築に助けを求めたところでこんな場面を見られる事も怖い。
いや、志築に助けを求めたところで、志築にここに来てもらうには時間がかかる。
視界の隅に入った時計の示す時刻から志築は仕事が終わったばかりだし、助けを求める方法のスマホを出す余裕なんてない。
つまり自分でなんとかするしかない。
俺がしようとしている事なんて全部お見通しと言った様子で抑えつけられ、今川くんは俺のトレーナーをたくし上げる。
肌に舌が這い、胸の突起をちゅっと吸われて声が零れてしまう。
慌てて口を手で押さえるけどもう遅い。
「っやだ! やめて!」
「なんで? 可愛いよ」
「いや…いや!」
「小野崎…好きだ。俺のものになれ」
「やだ…! 志築!」
ちゅうっと脇腹を吸われてチリッと軽い痛みが走る。
「志築! 志築!!」
「残念。相手は俺だ。俺を呼べよ、小野崎」
わかってる。
でもやだ。
志築じゃなきゃ嫌だ。
押さえられた腕をなんとか振り解いて今川くんの顔を押しのけると今川くんが体勢を崩したので逃げようとしたけど捕まった。
肌にキスがたくさん落ちてくる。
優しいキスだけど違う。
志築じゃない。
涙が溢れてきて、身体の力を抜いた。
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