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「透、教えて? 不安とか心配ってなに?」
帰宅してリビングの椅子に座った俺の前の床に膝をついて俺を見上げる知颯。
まっすぐ見つめられて少し怖くなる。
「…知颯は、いつも俺に合わせて我慢してるんじゃないかって思って」
「うん」
「それでいいのかなってずっと思ってて…」
「うん」
苦しい…苦しい。
でも言わないと。
「知颯はもっと、おしゃれなお店行ったり、知颯とつり合う可愛い子と歩いたりしたいんじゃないかって…思って…」
「俺は透といられるのが一番だよ」
知颯は当然の事のように言う。
「俺にとって透以上はないんだよ?」
そんなの、わからない。
「知颯は俺を屈服させたいだけじゃないの?」
「は?」
ひとつ息を吐く。
「『そう? わからなかった』」
「っ…」
「ほら」
この言葉を言うと知颯は反応する。
俺を屈服させたいだけだ。
それだけで俺といるんだ。
別に俺が好きなわけじゃないんじゃないの?
「…俺を屈服させたいだけならもう十分じゃないの?」
「なに言ってるの? 透」
「散々俺を抱いて満足だろ? もういいだろ、もう…十分だろ!?」
「っ!!」
ガタン、と音が聞こえて床に押し倒された。
「なにが十分なの? 透があんなエロい顔するから俺がおかしくなるんだよ」
「え?」
「透は気付いてないでしょ。あの言葉言う時、どんだけ自分がエロい顔してるか」
「えろ…?」
なにそれ。
「最初の時から押し倒したい衝動止まらなかった。すげーエロい顔見せられて理性吹っ飛ばされて、その場でめちゃくちゃにしたかった」
「?? イケメンって事にかなり自信持ってたのを否定されたとかプライドがボロボロって話は…?」
「あんなの嘘に決まってんじゃん。クラスメイトが見てようがすぐ押し倒したかったって言ったら引くでしょ」
「うん」
それは引く。
だってかなり自信が…とかプライドが…とか聞いたのって告白される前、イケメンだと認めさせるって言い出した頃だったと思うし。
「じゃあイケメンだって認めさせるって言ってずっとそばにいたのは…?」
俺が聞くと。
「そりゃ透のそばにいる口実でしょ」
「……」
そうなんだ…。
「イケメンなのにかなり自信があるだなんて、そんなわけないじゃん。ふざけて言うだけで本気じゃないよ」
ちょっと眉間に皺を寄せる知颯。
知颯ならありえると思ってたんだけど。
「でも俺の事『地味顔』って言ったじゃん」
「それは…ごめん。ふざけ過ぎた」
知颯が本当に申し訳なさそうに謝る。
ふざけてたんだ。
まあ、あの時声かけてきたのも罰ゲームっぽかったしふざけてた感じだったからかな。
「透はすごく可愛いよ、地味顔なんかじゃない」
「…それはちょっと、なんて言うか…」
絶対可愛くないし間違いなく俺は地味顔だ。
否定したら怒るって顔してるからなにも言わないけど。
「なんで今まで隠してたの?」
「言えるわけないでしょ。透のエロい顔思い出して毎日ヌきまくってたとか言えないよ」
「…そう」
そんな事してたんだ…全然知らなかった。
頬や額、鼻の先、顎、首にキスが落ちてくる。
「これでも『屈服させたいだけだろ』とか『散々抱いて満足だろ』ってまだ言う?」
「……」
「こんなに透にだけ欲情してるんだけど」
知颯が怒った顔をして見せる。
それがちょっと可愛くて、でもここで笑うのは失礼だから顔を引き締める。
「……うん。ごめん」
「透だから許す。けど」
「けど?」
なにを言われるか怖くて身体が強張る。
そんな俺の緊張を解すように知颯はキスをたくさんくれる。
「透がエロい顔するから勃っちゃった。ベッド行こ」
「……」
「だめって言ってもベッド行く…透?」
そっとスラックス越しに知颯の熱に触れると、確かに昂って硬くなっている。
仕事終わりにそのまま来てくれたから、スーツのまま。
なんかすごく…。
「…かっこいいよ、知颯」
「…?」
「知颯はすごくかっこいい」
“かっこいい”って、すごくわかった。
頭で理解するんじゃなくて、心で理解した。
かっこいいって感じた。
「え…」
…大きく、なった…?
手の中で昂りが確かに大きくなったのを感じて顔が熱くなる。
知颯の頬が赤らんで、俺を抱き上げる。
「透、どこでそうやって煽るの覚えてきたの?」
「煽る?」
「誰かに教わったなら正直に話して? 相手消してくるから」
「けし…」
教わってないし、そんな物騒な事言われたら教わってたとしても絶対言わない。
「誰にも教わってない」
「ほんと?」
「うん…。ただ知颯がかっこいいって感じたからそう言っただけ」
ベッドに運ばれながら知颯の首に腕を回してくっつくと、知颯が頬にキスをくれた。
本当に王子様みたいだ。
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