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かっこよくて怖い人
「小野崎ってすげー地味顔だよね」
「……」
「俺、かっこいいでしょ。ごめんね、輝くイケメンで」
「そう? わからなかった」
つい本音を言ってしまったんだ。
だってそういう事に疎い俺は本当にわからなかったから。
◇◆◇
「透! 今日の俺、どう?」
「……いつもと同じ」
「髪型変えてみたんだよ? よくない?」
「そう? わからなかった」
うわ、また言っちゃった。
―――『そう? わからなかった』
この一言が原因で俺は十年近くこの男に執着されている。
「透…」
「待って、志築…朝だから、んっ」
「待てない」
唇が甘く重なる。
この言葉でおかしなスイッチが入ってしまうらしく、抱き上げられてすぐにベッドに運ばれた。
「…志築、待ってってば」
「だから待たないって」
「あっ! だめ…」
せっかく着た服を乱される。
志築も髪をセットしたんじゃないのか…本当によくわからないけど。
「透…」
「……知颯…ほんと、だめ…」
高校一年の頃、俺は友達がいなくていつでもひとりで、二年に上がってやっぱりひとりでいた俺に同じクラスになった知颯が話しかけてきたのは仲のいいグループでなにかしてて罰ゲームかなんかだったんだと思う。
ぼんやり窓の外を見ていた俺に近付いてきた知颯が一言。
『小野崎ってすげー地味顔だよね』
言葉を交わした事のない相手に対する第一声がそれか。
まあ確かに地味顔だからいいんだけど。
そんな風に思いながら、俺はなにかを返す気にもなれず知颯の顔をじっと見つめた。
たぶんその視線で気をよくしたんだろう。
『俺、かっこいいでしょ。ごめんね、輝くイケメンで』
だからつい本音を言ってしまった。
『そう? わからなかった』
知颯は自分が誰から見てもイケメンであるという事にかなりの自信があったらしく、それを否定された事で全てが崩れたらしい。
もちろんプライドもボロボロになったとか。
“地味顔”の言葉なんて流し聞いておけばいいのに。
そして、『意地でも俺がイケメンだと認めさせる!』と奮起した知颯は、一か月後にはなぜか俺に求愛するという謎行動に走った。
もちろん断ったけど、それが更に知颯を暴走させてしまい『付き合って!』は続き、その度に断り、それでも諦めない知颯に俺も徐々に惹かれてしまい…。
しかも成績にかなり差があったにも関わらず、知颯は猛勉強して俺と同じ大学に合格し、更に四年間そばにくっつく事となった。
もうそこまでされたら頷くしかできなかった。
頷いた途端冷めるとかやめてくれよと思ったら、今度は『同棲してくれ』と迫ってくる。
俺が頷くまで諦めない知颯を知っているから、この時は前の告白に比べたら結構早く頷いたと思う。
『ずっとずっと一緒にいようね』
甘い囁きに抗えず、現在に至る。
「あっ! ちはや、すき…すきぃ…」
「ん…気持ちいいんだね、透……俺もすごく気持ちいい」
知颯のキスはいつでも甘美で、骨まで蕩けてなにも考えられなくなる。
キスと同時に弱いところを突かれてガクガクしながらイき続ける俺の耳元で知颯はいつも囁く。
「透は俺のものだよ…ずっとずっと、永遠に」
怖いくらい甘い声。
俺をおかしくさせて狂わせる。
「あ、あっ! あ…んっ、あ! ちはや、すきぃ…っ!!」
「可愛い透…好きだよ、大好き」
「んっ! あっ…もっと、もっとすきって、いって…っ」
「好き、好き…好きだよ透…」
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