きみをください

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◇◆◇ 土曜日は結人さんが来ないランチタイム。 平日と違って混雑しない店でぼんやり昨日の事を思い出す。 結人さんの温もりはとても落ち着くものだった。 心臓は本当に爆発するかと思ったけど。 「そろそろ閉める準備しようか」 「はい」 土曜日は夜の営業はなしで日曜日が休み。 とは言っても土曜日の昼はぽつぽつとしかお客さまが来ないから土曜日の出勤自体、そんなに大変じゃない。 メインのお客さまはやっぱり、平日に来てくださる周辺の会社の方達。 閉店作業を終えて店を出る。 アパートに向かって歩き出そうとして足を止める。 スマホを出してメッセージを送ろうと思ってやっぱりやめる。 うしろを振り返ってみると。 「今、誰に連絡しようとした?」 「……秘密です」 結人さんと並んで歩く。 今日はスーツじゃない。 ちらちら見ていると結人さんが笑う。 「そんな見方しないで、正面から見てもいいよ?」 「……」 恥ずかしい…。 「…スーツじゃないの、初めて見たので」 「そうだね」 「なに着てもかっこいいですね…」 「ありがとう」 なにを言っていいのかわからず外見を褒めてしまう。 でも結人さんは微笑んでくれた。 それからぽつぽつとなんでもない話をしながら歩く。 「そういえば結人さんっていくつなんですか?」 「俺に興味がある?」 結人さんの言葉は色々含んでいるようだけれど、俺は否定せずに頷く。 「三十」 「…二十代だと思ってました」 「啓真はいくつ?」 「二十六です」 そっか……でもそんなに上でもないのか。 俺、結人さんの事、全然知らない。 「啓真は本当に可愛いね」 「えっ!?」 「俺をもっと知りたいって顔してる」 「……」 また顔に出てるのか。 これ、なんとかならないのかな。 「俺が知りたければ、啓真を教えて」 「結人さん、俺を知りたいんですか?」 「知りたいよ。好きな人の事はなんでも知りたい」 「!!」 好きな人…。 顔がぶわぁっと熱くなって、心臓がどっくんどっくん言い始める。 そんな俺の顔を覗き込んで、結人さんは優しく微笑む。 「啓真が大好きだよ」 「……」 どっくんどっくんどっくんどっくん… 心臓の動きが大変な事になってる。 結人さんを見上げて口を開く。 「お」 「残念。時間切れだ」 見るとアパートの前。 結人さんがそのまま帰って行こうとするので咄嗟に手を掴んでしまう。 「啓真?」 「……今日も、おにぎり食べませんか?」 「……」 こんな風に誰かを部屋に誘うなんてした事ないから、どう言うのがいいかわからないから思い付いたままを言う。 結人さんは俺が掴んだ手をぎゅっと握り返して微笑む。 「じゃあお邪魔しようかな」 「…はい」
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