ちょっとおかしい幼馴染

4/8
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
詩音を置いて走り出す。 走ったって詩音にはすぐ追いつかれるだろうけど、腹が立つから隣を歩きたくない。 なにが『無理しないで』だ。 近付きたくないなら近付かなくていい。 そんなに嫌なら勝手にしろ。 俺の気持ちなんてどうでもいいなら好きにしたらいい。 本当は詩音がもう俺の事を嫌になったんじゃないの? もう知らない!! 「……詩音のばか」 迷惑だなんて、言った事も思った事も感じた事も一度もないのに…。 俺だって詩音が好きなのに、なんでそういうおかしな事ばっかり…。 どうせおかしい事言うなら、前みたいなおかしい事言ってよ…いつもみたいな事言ってよ…。 じゃないと涙が出てきて止まらなくなる…。 「ここちゃん!」 「!!」 慌てて目元を拭うと、詩音が追い付いてきて俺の手を掴む。 「ここちゃん、泣いてるの!?」 「泣いてない!」 「どうしたの? どっか痛い!? 撫でてあげる!」 「いらない!!」 手を振りほどいてまた歩き出すと詩音もすぐそばをくっついてくる。 俺の顔を覗き込んではなんか言ってるけど無視する。 詩音なんか知らない。 「ここちゃん! ちゃんとこっち見て!」 「やだ!」 詩音が俺の前に立って足を止めさせようとするので避けようとすると、それを更に止められた。 手をもう一度掴まれてぐっと顔が近付く。 「泣いてたよね?」 「…泣いてない」 「隠さないで」 「……」 なんなんだよ。 勝手な事ばっかり言いやがって。 詩音を睨みつけると、詩音は微笑む。 「ここちゃんのそういう顔、初めて見た。可愛い」 「詩音なんか…!!」 『嫌いだ』 そう言いたいのに。 勢いに任せてそう言ってしまいたいのに言えない。 だって好きな相手に勢いでも『嫌い』なんて言いたくない。 また視界がじわじわしてくる。 「ここちゃん、ごめん。大好き…すごく好きだからやっぱり近付きたい」 「……俺だって詩音が好き」 「うん。ごめんね」 詩音が俺を抱き締める。 こんな場所でって思うけど、抵抗したくないし俺だって抱き締められたい。 「詩音のばか…」 「ごめん」 謝られたって、ただ許すのは癪だ。 俺が詩音とどうなりたいか。 答えが見えた。 「……俺を詩音の恋人にしてくれるなら許す」 「…いいの?」 「嫌なら許さない」 「嫌なわけない!」 声を上げる詩音のネクタイを引っ張ると、背の高い詩音が少し屈む格好になる。 そのまま俺からキスをしてやった。 「じゃあちゃんと許してもらえるね」 詩音は嬉しそうに微笑む。 「……ばか」 頭いいくせに、ほんとばかなんだから…。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!