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ちょっとおかしい幼馴染
玄関を出て深呼吸。
隣の家のドアが開いて背の高い男が現れる。
「ここちゃん、会いたかった!!」
「…おはよう、詩音」
昨日会ったばかりなのに毎朝これだ。
俺も嬉しいんだけど。
そこに俺の母親が顔を出す。
「あら詩音くん、相変わらずかっこいいわね」
「おはようございます。おばさんも今日もお綺麗です」
「ありがとう。心、お弁当忘れてる。ほんと、詩音くんみたいにしっかりしてくれないかしら」
「…ごめん。ありがとう」
「いってらっしゃい」
「「いってきます」」
母親の姿がドアの向こうに消えると。
「ここちゃんはうっかりさんだなぁ。可愛い」
「可愛くないんだけど、なんでか忘れちゃうんだよね」
「大丈夫。どんなここちゃんも大好きだから」
「うん」
『うん』以外の返し方がわからない。
俺と詩音は幼馴染。
詩音はすっごくかっこいいのにちょっと性格がおかしい。
俺をばかみたいに可愛がる……異常なまでに。
そして小学校の時に俺がテレビを見て『この子、可愛いね』と言っただけで三日間寝込んだ事があるほど俺が大好き。
好き好き好き好きー!!!って毎日毎日顔を合わせれば…時間があれば部屋の窓からも言われ続けて、当然のようにずっとそばにいる。
俺のどこがそんなに好きなのかよくわかんないけど、俺も詩音が好きだから一緒にいられるのは嬉しいからいい。
「ここちゃん、手繋ごう」
「え? ここで?」
「うん」
俺がいいとも言わないうちに手を繋がれる。
昔から変わらずあったかい手。
「ここちゃん、食べたい」
「え?」
「おいしそう」
「!?」
ぱくりと俺の指先を口に含む詩音。
心臓が跳ねる。
そのままはむはむと甘噛みされる。
たぶん今、俺の血液沸騰してる。
「な、な、な…」
「おいひい」
「なにしてんの!!」
慌てて手を引くと詩音は悲しそうな顔で俺をじっと見る。
「そんな顔してもだめ」
「……」
「だめなものはだめ」
「……」
「……だめ」
「……」
「………帰ってから」
「!!」
ぱっと笑顔に変わって、また俺の手を取ってぎゅっと握って歩き始める。
俺ってほんとに詩音に弱い。
だってあんな顔されたらずっと怒っていられない。
でもさっきのは……思い出しただけで顔から火が出そう。
「ここちゃん真っ赤だね」
「…見ないで」
「かーわい」
いつもこうやって俺ばっかり真っ赤になって慌てて。
たまには詩音を慌てさせてみたい。
学校の最寄り駅に着いてからまた手を繋いで歩く。
誰かに見られるかもとか心配したりしない。
だってみんな知ってるから。
イケメン詩音が告白される度に、『俺には飯塚心だけだから』って言って断ってくれたおかげで、俺の知らない間に全校生徒から見守られる仲となってしまっていた。
「おはよー、朝から仲いいねー」
「原田くん、飯塚くん、おはよう。これあげる」
「あ、ありが」
「心に餌付けしないで」
チョコをくれようとしたクラスの女子達に冷たい態度をとる詩音。
新発売のチョコで、俺は食べてみたい。
「おいしそうだよ?」
俺が言うと。
「ありがとう!」
ころっと態度が変わった。
女子達も苦笑い。
いつもの事だ。
「心、よかったね」
「…うん」
学校だと『ここちゃん』が『心』になる。
一応気を遣ってくれているらしい。
「あ」
「どうした?」
「宿題のプリントでわからないところがあったんだ。早く行ってやらないと」
「じゃあ急ごう。見てあげる」
「うん」
詩音はこんなんでも成績がいいからいつも俺の勉強を見てくれる。
本当にお世話になりっぱなし。
…たまにおかしな事するけど。
早足で歩きながら、指先の甘噛みの感覚を思い出して顔が熱くなってきたので手で扇いだ。
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