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【ロボット利用規約第8条第17項】
・理由の如何を問わず、人間に危害を加えたロボットはその製造元が回収・処分することを義務とする。
総ガラス張りの高層ビルの55階。
洒落たバーの隅の席で2人の男が飲んでいた。
一人は短めの髪を整髪剤で逆立てた暗い目をした男、もう一人は茶色い髪を肩まで伸ばした優男、二人とも二十代の半ばに見える。
「タカシ、おまえその歯はどうしたんだ?」
短髪の男がグラスを傾けながら尋ねると
「やられたよ、リュウジ」
長髪の男タカシが忌々し気に答え、洋酒をあおるように喉に流し込んだ。
その口元を見れば、右の前歯がきれいに消失している。
「誰にやられた?」
「例のロボットさ」
タカシが吐き捨てるように言って、空になったグラスを置いた。
既に大分顔が赤らんでいる。
「R28ルークか……」
「アリサはルーク・ランドルフ・ジュダーって言ってるがな」
「ご大層な名前だ」
短髪の男リュウジは暗い双眸でグラスを傾けた。
「落ち着いてんじゃねぇよ。俺は機械野郎に歯を一本折られたんだぞ!」
表情を変えないリュウジを見てタカシが声を荒げる。
「ロボットにやられて前歯1本で済めば運がいい」
「ふざけろよ? ロボ公は人間様に手ぇ出しちゃいけねぇことになってんだ!」
タカシの怒りは収まらない。
「Rシリーズの24型以降で感情障害が出ると”加減”が利かなくなるケースがある。恐らくそれだろう」
「クソ、なんだってよりにもよってアリサんとこのロボ公にそんなもんが出やがるんだよ」
タカシはヤケのように酒をあおった。
「だが、感情障害で人間に怪我をさせたロボットは強制回収だ。アリサから奴を引き離すチャンスだな」
「おお、そりゃいい案だ。よし、アリサんとこに行こう。アリサが素直に俺のものになってくれりゃロボ公を見逃してやってもいい」
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