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2月2週目の土曜日がやってきた。
いつも通り4時55分に駅に着くと、ボードケースを背負った長身の大貴が待っていた。
結構、様になっている。
「…おはよ」
「はよ」
「じゃ、行こうか」
「おぉ」
順番に改札を通り上り線のホームに向かう。
ガラガラの電車に乗り込み背負っていたボードケースを前に抱えて並んで座る。
「大貴スノボ歴どのくらいなの?」
「4年目」
「えー…じゃあ上級コースとか行っちゃう感じ?」
「いや、そんな大して回数は行ってねぇし」
「私、お昼まで休憩なしでひたすら滑るけど大丈夫?」
「余裕だっつーの」
「どこの板使ってんの?」
「バートン」
「え⁈私もバートンだよ‼︎一昨年の冬スポで揃えたの。めっちゃ色々迷ったけど楽しかったー」
「じゃあ…中野は3年目?」
「うん」
「グラトリとかやったりすんの?」
「しないしない‼︎滑るだけだよ。大貴はすんの?」
「ちょい跳ねくらいな」
「えー…ヤバ。絶対カッコいいじゃん」
「…は?別に」
「動画とかないの?見せてよ」
「良いけど」
大貴が動画を再生して見せてくれる。
『おー‼︎大貴ヤバ‼︎』『大貴超カッコいいー』『あ、また跳んだアイツ』『私もやってみたい』
「やべ、音…」
大貴が慌てて音量を下げる。
車内に響いた大貴の友達の声にスッと冷静になる。
女の子の声がした。
じわじわと胸に嫌な痛みが広がっていく。
「…すごいね」
作り笑いしながら自分の携帯で天気予報を見始める。
「教えようか?」
「ううん…私はいい」
「…天気、良さそう?」
「え?あぁ、うん」
それから新宿に着くまでの数分、お互い黙ったままだった。
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