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幼馴染み
小学生の頃に都心の方に転校してから、蛇川村に帰ってきたのは何年ぶりだったか。
千暁は夏休みに息抜きを兼ねて、小学生の頃まで暮らしていた田舎の村に帰ってきた。
今まで自然豊かな村に何度か帰りたいとは思っていた。
だが転校先があまりにも遠すぎて、滅多に行ける距離ではなかった。
夏休みの間だけならと両親が許してくれたので、千暁はしばらく居座ることにした。
かつて住んでいた、親戚が管理してる古い和風の家屋に帰ってきて、千暁は安堵していた。
両親は仕事が忙しく、当分、千暁だけが夏の間だけ暮らす家だ。
日頃ある程度管理はされている為、ホコリっぽさはあまりない。
遠方から引っ張ってきた重い荷物を運んで疲れも溜まっていた。
千暁は夕暮れ時、扇風機をつけっぱに畳の上で寝ていた。
目が覚めた頃、辺りは真っ暗で、夏虫たちの泣き声が響き渡っていた。
千暁は手探りで電気をつけた。
寝惚け眼であくびを噛み殺した時、網戸を叩く音が聞こえた。
一瞬驚いたが、目を向けてから千暁は思わず笑みを溢していた。
「アキラ…久しぶりだな。」
そこにいたのは小学生の頃によく遊んでいた友人のアキラだった。
昔に見た時より成長している。
「よお!久しぶりだな!千暁!」
アキラは物静かな千暁とは対称的に、明るく人懐っこい性格のクラスのムードメーカーだった。
「そんなところにいないで、上がったらどうだ?」
するとアキラは軽く首を振る。
「いやいや、俺も用事のついでに寄っただけだからよ。ちょっと話したらすぐに帰らねぇと。」
「…そうか。どうせ親もいないし、お前とは色々話したいと思っていたが、仕方ないな。」
「はは、また暇になったらちょくちょく遊びに来るからよ。それで満足してくれよ。
俺も夏の間だけ戻って来てるだけだからな。」
「なるほどな、俺と同じということか。
ところで、他の皆はどうしてるんだろうな。
って言っても、アキラもこっちに帰ってきただけならわからないか。」
「俺もお前がいるって聞いて、急いで駆けつけてきたから、わからねぇなぁ。」
「しかし、こうやって話すのも懐かしいな。
なんだか昔を思い出す。」
「俺も昔に戻りたいぜ。皆で馬鹿やってた頃にさ。」
アキラは昔を懐かしむように目を細めると、室内の時計を見て、思い出したように呟いた。
「あ、そろそろ帰らねぇと。」
「ああ。…もうこんな時間か。
アキラ、また遊びに来いよ。
少なくとも夏休みの間はここにいる予定だから。」
「おう、じゃあな。千暁。」
アキラは昔のような屈託のない笑みを洩らすと、手を振って去っていった。
アキラはクラスの中心的な存在で、無愛想な千暁がクラスに馴染むきっかけにもなった人物だ。
千暁は、子供っぽいが明るくて誰とでも仲良くなれるアキラにいつも憧れていた。
だから会えて良かったとそうぼんやり考えたのだった。
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