金縛り

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 その日、千暁(ちあき)は公民館に来ていた。 図書館に行くと、やはりその者はいた。  「千暁くん!」  読書をしていた勇人(ゆうと)は千暁を見て目を輝かせた。 そして大声を漏らしてから、図書館である事に気づいて、頬を赤らめて目を伏せた。  「ご、ごめんなさい…。」  「勇人(ゆうと)、少し話がしたい。 …良いか?」  「あ、千暁くんならよろこんで! …でも、話って?」  勇人(ゆうと)は不思議そうに首をかしげていた。    千暁は勇人(ゆうと)を連れて、普通に会話をしても問題ない公民館の方に移動していた。  「勇人は金縛りとか信じるか? 確か小学校の頃はオカルトとか、その手の本をよく読んでたろ。」  勇人がよく怖い話の短編集を、学校の図書館で借りていたのを思い出す。  「…信じるよ。オカルトとか今でも好きだからというのもあるけど。 そういう現象は実際起きている話を聞くし、何より千暁くんがそう言うなら。」  真剣に即答する勇人に、千暁は目を(またた)かせていた。  「…そうか。実は最近、金縛りが起きていてな。寝苦しくて眠れないんだ。」  「そういうのって、きっかけとか原因があるものだけど、千暁くんは何かしら思い当たる事はないの?」  「…しいて言うなら、図書館に行って、勇人に会った。」  「お、俺と…?」  千暁は勇人の顔を覗きこんでいた。  「…一つ、聞きたい事がある。 勇人(ゆうと)、何か悩みはないか?」  勇人(ゆうと)はなぜか顔を微かに赤らめて目をそらす。  「な、なんで…俺に聞くの?」  「…金縛りが起きてから、最近では声が聞こえるようにもなってきた。 その声が何を言っているのか、ずっと考えていたが…俺の推測(すいそく)だと、『助けて』と言っているように聞こえた。 その声が、どことなくお前に似てる気がした。 金縛りが起きたのも、お前と話してからだ。 だから何か、悩みとかないかと…念のためにな。」  勇人(ゆうと)はなんとも言えない複雑な表情で千暁を見つめると、目を伏せた。  「悩みなんて、ないよ…。 千暁(ちあき)くんの思い違いじゃないかな…? あ、えと、俺…先帰るから…!」  勇人は千暁から背を向けて早足で居なくなろうとした。  しかし千暁は、勇人の腕を掴んでいた。  「…ッ、痛ッ…!」  軽く掴んだつもりだったのに、勇人は顔をしかめる。  「わ、悪い…力、入れすぎたか…?」  その時、勇人の長袖から、白い腕が覗いて見たた。  日焼けしてない白い腕に、毒々しい色をしたアザがチラリと一瞬見えた。  嫌がる勇人に構わず、千暁は袖を(まく)っていた。  「…勇人、これは…。」  腕には何個ものアザが広がっていた。 明らかに誰かに暴力を振るわれた事により出来たものだ。 腕だけでこれなら、身体はいったいどれほどの傷があるのだろう。
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