金縛り

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 勇人は腕を振り払っていた。  「ちが、違う!…これは、ぶつけて…。」  「何個もアザが出来るほどぶつけたとでも言うのか?」  勇人は歯噛み、そして千暁を睨み付けた。 その瞳には涙が浮かんでいた。  「…千暁(ちあき)くんには、関係ないだろ…ッ! 俺の事なんて放って置いてよ!」  歩き出した勇人(ゆうと)だったが、公民館に新たに入ってきた者と衝突していた。  「いってーな…って、あれ?お前、誰かと思えば勇人じゃねーか。 お前、この前言ってた金、持ってきた?」   彼はこの前に図書館で騒いでいた不良だった。  勇人はその時、彼らを見て怯えたように涙目になった。  「は、話なら…あっちで…」  「はぁ?話ならここで出来るだろ? 逃げられても困るしな。今ここで、金を渡せよ。 それともまた、殴られたいのかよ?」  不良が勇人の胸ぐらを掴もうとした時、千暁は不良たちの前に出ていた。  ぬっと現れた千暁を、不良は(ひる)んだように見上げた。  「お前、なんだよ、急に。」  「それはこっちの台詞だ。 あんた、俺の友達に何をしてる?」  「は…?友達!?こいつと!?オイオイ、嘘だろ…? たとえ友達だとして、他人が首突っ込んでくんじゃねーよ。 俺はそこの勇人くんに用があるわけ。 手持ちが少ないから、勇人から借りようと思ってな。 俺ら、お友達だし。テメェは引っ込んでな。」  「…とりあえず、勇人を怪我させたのはあんたか?」  「おい、話聞いてんのかよ?もしそうだったとして、テメェには関係な」   刹那(せつな)、千暁は力の限り、不良の顔面を殴っていた。  思い切り顔面に『入った』心地の良い音が響いた。  「ぐお!?」  「ち、千暁くん!?」  狼狽(うろた)える勇人をよそに、千暁はぐったりとした不良の髪を掴みあげる。  見下ろしながら耳元で(ささや)いた。  「今後一切、俺の友達に手を出すんじゃねぇ。 …言っておくが、次はこんなもんじゃ済まさない。 他の連中にも伝えておけ。 もし、また勇人に手を出せば、どこにいても必ず見つけて俺が潰すと。」   「お、お前、マジでなんなん…」  「二度目はない。」  血まみれの不良は、千暁に(すご)まれ見下ろされ、力なくコクコクとうなずいた。 千暁は目線を移し、勇人に目を向ける。  勇人はどこまでも驚いたように、目を見開いていた。  「…大丈夫か?勇人。」  「あ、う、うん…じゃなかった。は、はい…。」  「なんで敬語になる?いつも通りでいい。」  「その、良いの…?他校とは言え、人を殴っても…。」  「距離が離れた他校だ。 何より連中は、やましい事情があるから、話すにも話せないだろ。 そんなことより、勇人、行こう。」  千暁は勇人を連れ、公民館の外に出ていた。
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