お祭り

3/3
前へ
/22ページ
次へ
 「…なんで俺ばかり色々言われてるんだろう…。」  勇人が悲しげに(つぶや)いた。  千暁は髪を掻きあげながら、息をつく。  「…とりあえず、皆で帰るか…。」  なぜか四人で、花火を見ながら歩いた。  「千暁、今日家に泊めろよ。 どうせお前しか居ねぇだろ。」  千暁は律樹(りつき)に目を向け、それから花菜(かな)を見る。  花菜(かな)が酷く悔しそうにこちらを見てくるのが、不憫(ふびん)に思えて、千暁は首を横に振っていた。  「いや、今日は帰ったらどうだ。 泊まるのなんて別の日にでも出来るし。 今夜は花菜(かな)を家まで送ってやった方が良いだろ。」  「花菜(かな)の家なんてどうせ隣なんだから、送るも糞もねーよ。 なんだよ、今日のお前はなんかムカつく。 …ばか千暁(ちあき)。」  律樹(りつき)不貞腐(ふてくさ)れたように、千暁を睨んだ。  「…意味がわからない。」  道中の帰り道、一足先に律樹(りつき)花菜(かな)と別れて、千暁と勇人は歩いていた。  「そういえば律樹(りつき)くん、大丈夫なのかな。 体調悪そう…というか、何だか疲れてるみたいだったけど。」  「確かに。明日、顔を見せにでも行くか…。 お前も来るか?勇人。」  「お、俺は遠慮しておくよ…。 律樹(りつき)くん、俺には怖いし。」  勇人は不思議そうに首をかしげる。  「でも不思議だよね。誰もいない時にこそ霊的なものは現れたりするものなのに。 人がいたり、家で変な感じがするなんて。 今までだって可笑(おか)しい事とか、昔から何もなかったのかな…?」  「律樹(りつき)が、千暁の家に泊めろって言った時はどうなることかと思ったけど…断ってくれてよかった。 …そのおかげで、今日も私の可愛い律樹(りつき)の生着替えを堪能(たんのう)できるんだもの…。」  薄暗く鍵のかかった部屋で、花菜(かな)は室内に何個もあるモニターのうちの一つを凝視していた。  そこには着替え途中の律樹(りつき)が映っており、花菜(かな)は興奮したように舌を舐めた。  「…あのよそ者のゴリラ、私の律樹(りつき)を独り占めしやがるから、さっさと死んでくれないかな…。 あのゴリラが私の律樹(りつき)を誘惑するせいで、律樹(りつき)は行きたくもないゴリラの家に毎日のように行かされて…本当可哀想。 私の可愛い律樹(りつき)が汚れるわ…。 あいつ、私の律樹(りつき)に手を出してないよね…? もしあの穢らわしいゴリラが、私の律樹(りつき)に手を出してたら…」  花菜(かな)はその時、吐瀉物を床にぶちまけていた。  室内に置かれたいくつかのモニターには、律樹(りつき)の家のありとあらゆる場所が移し出されていた。  部屋、リビング、トイレ、風呂場、玄関と、ありとあらゆる場所に隠された監視カメラによって、どこに律樹(りつき)がいても、常に律樹(りつき)を監視できるようになっていた。  花菜はベッドの上で寝転がる律樹(りつき)を見て、口を拭う。  「はあ~…早く死ねよ…糞ゴリラが…。 それかさっさと消えろ…。 いっそのこと、ゴリラの家にもつけよーかな…監視カメラと盗聴機。 そうすれば、ゴリラの家にいたとしても律樹(りつき)を見る事が出来るし…。 あ…そろそろ律樹(りつき)の鞄につけてるGPSの充電しなきゃ…。」  隠し撮りしたと思われる律樹(りつき)の写真まみれの室内で、花菜(かな)はヘッドホンを頭につけながら、そんな事を(つぶや)いたのだった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加