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お盆
八月中旬のお盆の季節、千暁の家で、二人はアイスを片手にだらだらと喋っていた。
「千暁、お前がこの村に来て、結構経つな。
つっても、半月か?」
律樹が暑さで垂れそうになったアイスを舐めとる。
「そうだな、もうお盆だ。
明日には親もこっちに帰ってくるらしい。」
「なるほど、じゃあお前の家にも入り浸れねぇな。」
律樹はこの前の祭以降、千暁の家にすっかり入り浸っている。
最近ではお泊まりセットも常時されるようになったので、身一つで泊まる事も珍しくない。
「両親がいて不都合でもないなら、好きにすれば良い。」
千暁の言葉に、律樹が目を輝かせた。
「マジで!?」
その直後、家のチャイムが鳴った。
「んだよ、タイミング悪ぃな。
どうせまた勇人じゃねーの?放っておけよ、あんな弱虫。」
「勇人ならなおさら出ない理由がない。
お前はどうしていつも勇人には冷たいんだ?
ちょっと出てくる。」
「チッ…お前のせいだっての、ばか千暁…。」
気に入らなそうな律樹の呟きには気付かず、千暁は玄関に向かっていたのだった。
「あ!千暁くん!」
「やっぱり勇人だったか。上がっていくか?
律樹もいるけど。」
「うっ…お誘いは嬉しいけど、どうしよう…!」
千暁の和室で、足をこれ見よがしに晒しながら我が物顔で寝転がり、だらだらする律樹。
モニター越しにその者は視ていた。
「ううう…律樹マジ天使…!
可愛いしんどい好き好き好き…ッ!
…なんで、あんなゴリラの家に入り浸ってるのよ!羨ましい!!ずるいわ…ッ!」
千暁の幼馴染みの美少女でありながら、病的なまでに律樹を愛し、監視している三好花菜であった。
花菜はゴリラと称する千暁の家にも勝手に侵入し、無断で監視カメラと盗聴機を設置して、監視範囲を着実に広げていた。
しかし監視すればするほど、千暁に対して悔しさと、律樹から全く相手にされない虚しさだけが連日募っていく。
ずっと隣にいたのは自分だったのに。
どうしてぽっと出のアイツばかり見るのか。
正直殺したくて仕方ないのを必死に堪える日々であった。
モニター越しに、玄関で千暁と勇人が語り合う姿に花菜は舌打ち。
リモコンを投げつけていた。
「あいつ、勇人とも仲が良いクセにどうして律樹まで…!!贅沢なのよ!
見境のないホモゴリラ…クソ、クソクソ!!
死ねば良いのにッ!!」
その時、モニターの中の律樹が暇そうに起き上がり、玄関に向かう。
千暁や勇人、律樹の三人で語り合う姿を見た瞬間、花菜は頭を抱えていた。
「…あのゴリラがいる限り、律樹は私を見てくれない…。
ゴリラは大人しく、地味でチビな勇人と盛っていれば良いのよ…それなのに…。
………千暁さえ、居なければ、私は律樹と………。」
花菜の声は、寒すぎるほど空調が良く効いた薄暗い室内で、ただ静かに響き渡った。
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