お盆

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 かつて、花菜(かな)が恋愛相談をした際に、友人から聞いた話がある。  蛇川村にある蛇山という山は、村でも一際大きな象徴的な山である。  蛇山の徒歩でも行ける範囲内に小さな(やしろ)があるが、それは普段こそは何の変哲(へんてつ)のない社である。  しかしお盆の時にだけその社に行くと、願い事を叶えてくれるという言い伝えがある。  花菜(かな)はその話を最初に聞いた時は、ただの言い伝えだと笑った。 しかしお盆の季節である今は、試したらどうなるのだろうという衝動に駆られた。  花菜(かな)はすぐにその友人に連絡を取っていた。  後日、花菜(かな)は明るい時間に、蛇山に足を踏み入れていた。  本来、お盆の最中には海や山には入っては行けないとされる。 お盆には霊達が帰ってくるので、連れていかれてしまうとも。  しかしそれは要は水場に行かなければ問題のない話である。  友人から再度言い伝えについての話を聞いた。  願い事を叶えて貰うために花菜(かな)はその日、蛇山に入った。  友人の話によると、言い伝えの通り願い事を叶えて貰うには、いくつかのルールがあるのだという。  一つ、清められた白い着物を着て、山に入ること。  二つ、蛇山に入ったら、一連の流れ、全てが終わるまで一切の口を聞いてはならない。  三つ、(やしろ)で願い事を叶えるためには、対価の生け贄が必要。 だから生け贄を捧げる事。 というルールがあるらしい。  一つ目と二つ目はどうにかなる。 問題の三つ目は生け贄と言うが、流石に人は難しい。 道中に干からびて死んでいたカエルを生け贄にする事にした。  花菜(かな)は願い事を叶えて貰う為に、必死だった。  蛇山に入って、そこそこの時間をかけて小さな(やしろ)に到着。 カエルを生け贄に捧げ、ひたすらに願った。  『千暁をこの世から消してください。』と。  別に『律樹が自分だけを見てくれますように。』でも良かったが、やはりあのゴリラは花菜(かな)の恋の邪魔になると考えた。  しつこいほどお願いしてから、花菜(かな)は山を下りるために、来た方向とは反対に下り始めていた。  最初は神経を張り詰めていたが、願い事をしてから冷静で、安堵(あんど)している自分がいた。  こんなもので本当に願い事が叶うとは思えないが、叶ったらここまでした甲斐(かい)もあるものだ。  その時、携帯が鳴った。 画面を見ると、友人からの電話であったが、花菜(かな)は違和感を覚えた。  この田舎、ここまでの山の中で電波なんてない。 しかし電話がかかってきている。 はたしてその電話、本当に友人からなのか。
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