6人が本棚に入れています
本棚に追加
かつて、花菜が恋愛相談をした際に、友人から聞いた話がある。
蛇川村にある蛇山という山は、村でも一際大きな象徴的な山である。
蛇山の徒歩でも行ける範囲内に小さな社があるが、それは普段こそは何の変哲のない社である。
しかしお盆の時にだけその社に行くと、願い事を叶えてくれるという言い伝えがある。
花菜はその話を最初に聞いた時は、ただの言い伝えだと笑った。
しかしお盆の季節である今は、試したらどうなるのだろうという衝動に駆られた。
花菜はすぐにその友人に連絡を取っていた。
後日、花菜は明るい時間に、蛇山に足を踏み入れていた。
本来、お盆の最中には海や山には入っては行けないとされる。
お盆には霊達が帰ってくるので、連れていかれてしまうとも。
しかしそれは要は水場に行かなければ問題のない話である。
友人から再度言い伝えについての話を聞いた。
願い事を叶えて貰うために花菜はその日、蛇山に入った。
友人の話によると、言い伝えの通り願い事を叶えて貰うには、いくつかのルールがあるのだという。
一つ、清められた白い着物を着て、山に入ること。
二つ、蛇山に入ったら、一連の流れ、全てが終わるまで一切の口を聞いてはならない。
三つ、社で願い事を叶えるためには、対価の生け贄が必要。
だから生け贄を捧げる事。
というルールがあるらしい。
一つ目と二つ目はどうにかなる。
問題の三つ目は生け贄と言うが、流石に人は難しい。
道中に干からびて死んでいたカエルを生け贄にする事にした。
花菜は願い事を叶えて貰う為に、必死だった。
蛇山に入って、そこそこの時間をかけて小さな社に到着。
カエルを生け贄に捧げ、ひたすらに願った。
『千暁をこの世から消してください。』と。
別に『律樹が自分だけを見てくれますように。』でも良かったが、やはりあのゴリラは花菜の恋の邪魔になると考えた。
しつこいほどお願いしてから、花菜は山を下りるために、来た方向とは反対に下り始めていた。
最初は神経を張り詰めていたが、願い事をしてから冷静で、安堵している自分がいた。
こんなもので本当に願い事が叶うとは思えないが、叶ったらここまでした甲斐もあるものだ。
その時、携帯が鳴った。
画面を見ると、友人からの電話であったが、花菜は違和感を覚えた。
この田舎、ここまでの山の中で電波なんてない。
しかし電話がかかってきている。
はたしてその電話、本当に友人からなのか。
最初のコメントを投稿しよう!