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ルールの中で、一連の流れ全てが終わるまで口を聞いてはならない。というのがある。
もし、本当に神や幽霊、人ならざる者が存在していたとする。
そいつらが花菜に罠を仕掛けるために電話をかけていたとしたら。
花菜はゾッとしながら携帯の電源を切る。
しかし再度、電話はかかってきた。
その瞬間、花菜は悲鳴をあげそうになりながら、声を堪え、山を急ぎ足で下っていた。
急いで山を出なければ、と恐怖を覚えた。
ここで声を出せば、願い事は叶わない。
花菜は駆け足で山を下り続け、そして村が見えてきた時、安堵した。
まだ気は抜けないと、携帯に電源を入れながら周囲に目を向けて山を下り続けることしばらく。
花菜は山を下りて、やがて村へと戻ってきていた。
明るい、何の変哲のない昔からよく見てきた村を目にした時、花菜は安心して力が抜けそうになった。
その時、視界に入ったのは、こちらに手を振ってくる律樹の姿だった。
「おーい、花菜!」
大好きで愛しい律樹を見た瞬間、花菜は涙目になった。
「律樹!」
思わず、抱き締めていた。
中性的な顔立ちに反して、意外とがっしりした律樹の感触に幸福を覚えた。
あと少しで邪魔者が消えて、律樹が自分のものになるのだという優越感を抱く。
花菜は涙を溢しながら、律樹の柔らかい髪を撫で、言う。
「律樹…あと少しで、あなたは私のだけのものに…。」
その時、携帯が鳴った。
花菜は律樹を抱き締める感触を名残惜しく思いながら、携帯の画面を覗き込む。
「え…?」
花菜は怪訝に思いながら画面を押すと、声が聞こえた。
『よお、花菜。今なにしてんだ?』
「………え?私は今、律樹と一緒に…」
『はあ?なに言ってんだ、花菜。
俺は今、千暁の家にいるのにお前、なに言ってやがる?』
花菜は震え、携帯をその場に取り落としていた。
携帯から怪訝そうな声が聞こえてくるが、花菜の耳には聞こえていなかった。
自分は一体誰と話していた?
花菜の目に映るのは、目の前にいる律樹の姿をしたナニカだった。
「あなたは、誰…!?もしかして…これも、罠なの…!?
あなたは、人ならざる者で…。
でも、私はとっくに山は下りて…」
頭に浮かぶのは、ルールの一つだ。
『二つ、蛇山に入ったら、一連の流れ、全てが終わるまで一切の口を聞いてはならない。』
花菜はそれを山を下りるまでだと考えていたが、もし願い事が叶うまでだとしたら?
その瞬間、ゾッと背筋に冷たい気配が走った。
暑くて汗が止まらないはずの夏なのに、震えが止まらない。寒くて仕方がない。
目の前の律樹の姿をしたソレは、律樹とは似ても似つかない笑顔で微笑んだ。
花菜は考えていた。
もし、願い事を叶えるためのルールを破ったら、自分はどうなるのだろうと。
そして願い事を叶えるルールだと思っていた一連の流れが、まるで人を呪う方法によく似ていると感じたのは、気のせいだろうか。
だとすれば、それを破った花菜自身に、それは返ってくる事になる。
「そんな…嘘、嘘よ…!どうして、私が…ッ!!」
その瞬間、花菜の声は存在ごと消失していた。
最後には、セミの大合唱だけが、どこまでも永遠に響き続けた。
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