人魚の夢

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 「人魚…?その話を詳しく聞かせてくれ。」  千暁が律樹(りつき)に詰め寄る。  律樹(りつき)が頬を赤らめながら目をそらす。  「なんでお前がそんなに食い付いてんだよ…。  俺はあまり興味ねぇからよく聞いてなかったけど、婆ちゃんが言うには確か…」  律樹(りつき)の話では何百年も昔、蛇川村の海には人魚がいた。  人魚と人間の男が恋に落ちたという話まではよくある話。 人魚は肉食であり、人間の男を主食とする。  だから、美しい外見で魅了させ、人魚は人間の男を食ってしまったという。  それが語り継がれて、蛇川村で人魚は忌み嫌われていた。  今でも数百年に一度、人魚が獲物を求めて人目に現れる事がある。 人魚を目にした者は、人魚に惑わされて十日後、食われてしまう。  だが村を離れるか、あるいは海に行かなければそれを免れられる。 だから人魚は保険をかける事がある。  万が一、エサを食い損ねた時の為に。  人魚を目にした者から、人魚の話を聞いた者もまた、十日後に食われる可能性があるとの事。  人魚を目にした者。 この場合はヒロが人魚に食われた事により、千暁は人魚に食われる事を免れたと言うことだ。  「オイ、千暁?青ざめてどうしたんだ? 確かにヒロが行方不明になったのは驚いたがな。」  「いや…何でもない。」  もしヒロが村を出ていた場合、あるいは鋼の心で海に行かなかった場合、餌食にされていたのは千暁だった。  もしこのまま魅了されて、操られるままに海に行っていたらと思うと、千暁はゾッとしていた。  そして以降、夢に人魚が出てくる事は一切なくなった。
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