双子

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双子

 夏休み、千暁(ちあき)は村で一番近いスーパーに買い物に来ていた。  セミの大合唱が凄まじい暑い外と比べると、スーパーの中は空調が効いていて天国だった。 この後も買い物が終わったら、自転車で家まで帰らなければ行けない。  億劫(おっくう)に思いながら、千暁が値下げされた商品をカゴに入れた。 不意に、ある人物が目に入っていた。  「あれ、志倉(しくら)?」  その人物は飲み物でも買いに来ていたのか、ペットボトルを片手に目線をこちらに向けた。  「…千暁(ちあき)?久しぶり。 こっちに帰ってきていたんだね。」  穏やかな口調に柔和(にゅうわ)な眼差し。 物腰が柔らかいという事は、弟の方か。  「久しぶりだな。蒼真(そうま)。」  「ふふ、ずいぶん身長伸びたね。 ビックリしたよ。」  「お前もな。一瞬見違えた。」  志倉蒼真(しくらそうま)は小学生の頃に同じクラスだった友人だ。 兄の志倉(あおい)と弟の志倉蒼真(そうま)は、一卵性の双子で、まさに瓜二つだった。 しかし似ているのは外見だけで、兄の(あおい)はイタズラ好きなやんちゃ坊主。 弟の蒼真(そうま)はおっとりした優等生。 性格が正反対でもあった。  「蒼真(そうま)(あおい)は元気か?」 すると蒼真(そうま)は目を瞬か《またたか》せ、悲しげに伏せた。  「…そっか、千暁(ちあき)は長いこと村を離れていたから、まだ知らなかったんだ…。」  「何がだ?…まさか、何かあったのか?」  蒼真(そうま)は重苦しく(うなず)いた。  「実は(あおい)は、千暁(ちあき)が引っ越してすぐに、事故で死んでね…。」  千暁(ちあき)は己の言った言葉に後悔していた。  「悪い。…嫌な事を思い出させたな。」  千暁が言えば、蒼真(そうま)は首を横に振る。  「良いんだ。(あおい)は、今でも…僕の心の中で生きているから。」   そのおっとりした眼差しが、千暁に向けられた。  「むしろ僕の方こそごめんね…。 千暁に気を遣わせた。」  「俺の事は気にしないでくれ…。」  なんとも言えない、気まずいような微妙な感じで、千暁は蒼真(そうま)と別れていた。  スーパーから出ても、千暁の頭にあったのは、蒼真(そうま)とのやり取りだった。  まさか、あれほど明るくてやんちゃな葵が事故で死んでしまっていたなんて。  アキラに続いて、葵までも死んでいるとは。 明るくてそう簡単に死ぬとは思えないような者ばかりが命を落としている気がする。  千暁はどんよりとした気持ちを抱えながら、自転車のカゴに荷物を置いていた。  「…二人のお墓参りでも行くかな…。」
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