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兄
「やっほ~!千暁!遊びに来たよぉ!」
夏休みに千暁の元にやってきた人物がいた。
「春?久しぶりだな。」
「久しぶり~!律樹からは話を聞いたよ!今だけ帰ってきてるんだって!?」
春は小学生の頃の友人で、隣の町から千暁たちの通う学校まで、いつも車で送ってきて貰っていた。
明るくて人懐っこい奴だ。
今でもそれは変わらなそうだ。
春は千暁を見上げ、笑った。
「千暁、すっごく大きくなったね~!良いなぁ~!」
「お前は変わらないな。」
「えへへ、そうでしょ?」
ニコニコと笑う春を微笑ましく思いながら、そういえば、とある事を思い出す。
「そうだ、少し買いすぎたものがある。
一人では食いきれないし、少ないけど持っていってくれ。」
千暁はそう言って、買いすぎたフルーツを春に渡していた。
春は表情を輝かせる。
「わっ!良いの!?ありがとう千暁~!兄さんも喜ぶよ~!」
「さっき律樹と交流あるって言ってたが、今でもこっちの高校に通ってるのか?」
「うん!あ、でもさすがに兄さんには送って貰ってないよ!
一人で電車とかバスとか使って来てるんだ~!」
「高校生なんだから当たり前だろ。
春は昔からブラコンだな。
いつまで兄さんのお世話になるつもりなんだ?」
春には歳が離れた兄がいる。
昔から春は兄の事が大好きで、自分の事よりも兄の話をいつもするぐらい本当に仲良しらしい。
春は気恥ずかしそうに頬を掻いた。
「だって兄さんは俺にとって、親代わりだからね。
本当に大好きなんだ、兄さんの事。
…あ、そういえばこの前に兄さんがね!」
春は終始兄とのエピソードを語るだけ語ってから、数時間後にやっと家から居なくなった。
春はお喋りで話し出したら話が止まらないし、気づけば何時間も経っている。
ほんの少しだけ鬱陶しいとも思うが、兄弟がいない千暁には、いつも楽しそうに兄の事を話す春が、なんだかんだ羨ましく感じるのだった。
春が帰ってからしばらくして、再びチャイムが鳴って、来客があった。
今度は誰だろう、と出ると玄関にいたのは律樹だった。
「よお。」
「律樹か。よく来たな。
アイス食っていくか?」
「おう、暇だしクソ暑ぃし、アイスとコーラを奢られに来たぜ。」
相変わらず眩しいばかりの中性的な容姿をしているが、口は悪いし声はドスが効いていて低い。
律樹は慣れたように、既に自宅のようにズカズカ上がっていく。
「そういえばさっき、春がうちに来た。」
千暁が言えば、律樹は興味なさそうに扇風機に当たりに行く。
「ふーん?まあ、この前お前の事を春に話したしな。」
「春はいつも兄の事を話していて、仲良さそうで羨ましくなる。俺は一人っ子だしな。」
「一人っ子なのは俺もだろ。
つーか、あいつ、いつも夏の事ばっかり話してっけどよ。
最近肝心の夏の姿を全く見ねぇんだよな。」
夏というのは春の兄の名前である。
「まあ、送り迎えがなければ隣町に住んでる夏を見ることもないからな。」
「そーだな。あそこは二人で暮らしてるから忙しいんだろうな。俺らと違って。
春もいつもバイトで忙しそうだし。」
千暁と律樹は扇風機に当たりながら、夏休みをゴロゴロとしながら過ごした。
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