6人が本棚に入れています
本棚に追加
金縛り
夏休みに家でゴロゴロするのにも飽き始めていた千暁は、自転車で公民館にまで来ていた。
公民館には図書館があるので、空調がよく効いた涼しい空間で本をダラダラと読む事が出来るのだ。
図書館には、ちらほらと同じような理由の者達が訪れていた。
どの本を読もうかと辺りを見回していた時だった。
「…あれ?もしかして、千暁くん?」
声が聞こえ、振り返るとそこにいたのは同じ小学校だった友人の一人、勇人がいた。
「勇人、久しぶりだな。」
勇人はどこか嬉しそうに千暁の元に歩み寄る。
「本当、久しぶりだね。
…嬉しいな、まさか千暁くんに会えるなんて。」
勇人は、名前に反して大人しい性格で、昔から気弱だった。
長袖のシャツ、昔より伸びてはいそうだが背丈はやや低く、下がり気味の眉も相まってどこか気弱そうで、おっとりとした性格を隠せていない。
「元気だったか?」
勇人はこくりとうなずいた。
柔和な眼差しと線の細さで、どこか放っておけないような、幸の薄そうな印象を与えるのは、昔から変わらない。
「俺の事は良いんだよ。
千暁くんはどのくらいの間、この村にいるの?」
「夏休みの間はいるつもりだ。」
「そっか、少なくとも夏休みは会えるんだね。…嬉しいような、帰ってしまうと思うと、寂しいような…。」
長い睫毛が頼り無さげに揺れた。
「ここにはよく、来るのか?」
「うん、夏休みまでは。…とは言っても、今は良くも悪くも色んな人が来るから、様子見をしながら。」
勇人が一瞬目を向けたのは、図書館にいるには少し違和感を与える不良たち。
彼らは読書というより、大声で楽しげに騒いでいた。
ゲラゲラという笑い声が、やけに響く。
彼らも今は暇で涼しいから公民館に来ているのだろう。
「あ、えっと、もちろん千暁くんは別だよ!
むしろ…会えて、嬉しい…というか…。」
勇人は頬を赤らめながら、そう呟く。
「…そうか。それなら、また来る。」
「あ、う、うん!ぜひぜひ!って言っても、管理してるのは、俺じゃないんだけどね…。」
千暁と勇人は軽く言葉をかわして、その日は別れた。
先に帰った千暁は、あの後、勇人が不良たちに呼び出されている事など、到底知らなかった。
最初のコメントを投稿しよう!