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寝苦しく感じるのは暑い夏だからというだけではないだろう。
千暁が夜中に目を覚ましたのは、身体の上に乗っかる、ずっしりとした重さのせいだった。
目が覚めた時、身体はピクリとも動かなかった。
指や足の先でさえも硬直したように、まるで柱か枝になったように、微動だにしない。
これが、俗に言う金縛りか。
霊感とは無縁で、自分には一生起きるとは思っていなかったそれに、千暁は困惑した。
見えるわけではないが、こちらを見下ろす、なにかの静かな目線を感じた。
金縛りは千暁が眠りにつくまで続いた。
そして、それは始まりに過ぎなかった。
金縛りは連日、起きるようになった。
それどころか、日に日にエスカレートしていく。
最初は金縛りだけだったのに、何日も経つと、ベッドの上で黒い影のような何かがいると認識できるようになってきた。
それどこか、最近では何かの声まで聞こえるようになった。
「…けて……け…。」
ブツブツとはっきりとしないが、延々と聞こえてくるそれ。
千暁は自分がいよいよおかしくなってきたのか、あるいは本当にそれが存在しているのか、そんな判断すら出来なくなってきた。
どちらにせよいい加減、頭が可笑しくなりそうだった。
次の日、明るい時間にも関わらず、千暁はうとうとと眠そうに頬杖をついていた。
「最近顔色悪くねぇ?お前。」
横から言ってきたのは最近、家に入り浸り気味の律樹だった。
千暁は目を擦り、頭を抑える。
「…実は最近、眠れてなくてな。」
「珍しい!あれだけ、どこでも眠れる千暁が!?
明日は槍でも降るんじゃねーか!?」
「正直、ふざける気にもなれない…。
そろそろどうにかしたい所だ。」
「…よくわからねぇが、寝付けなくなった理由とかねぇのかよ?きっかけとか。
マジで急にじゃん。」
千暁は律樹を横目に頭を抱え、目を細めていた。
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