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「……おまえ。一生、そこで震えてるつもりか。」
呆れ返ったような男の声が聞こえる。
私は聞こえないふりをした。……いや、そもそも私は喋れないのだった。聞こえてたとしても返事なんてできないのだから、聞こえないふりでもなんでもない。これはただの、二人の間の日常だ。
……まあ、そんなことはどうでもいい。
私は無言で地べたへ目を落とす。
男が“そこで”と表現したここは、案外悪くない、綺麗な絵のような場所だなと思った。
凍りついた葉っぱは銀にピカピカと光り、雪の布団がうっすらと黒い土を覆い隠してゆく。
「………。」
「ハア。」
一向に身じろぎもしない私に、とうとう愛想を尽かしたのだろうか。
愛用の緑色のカエル傘を片手でクルクル回しながら、男は白い息を吐き出した。
「いい。ああ、いいともよ。……元から俺とおまえでは住む世界も生きる法則も違ったってわけだ。」
「………。」
「あばよ。二度と迎えになんか来てやるものか。骨も拾ってやんねえ。この常冬の大地でピカピカ青っちろい氷細工にでもなってしまえ。」
男は行ってしまった。
べつに寂しくはない。
でも……
————寒いなあ……。
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