氷奏妖の歌

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♢ カエルの傘を持った男、というのがあいつの第一印象だった。 なぜ児童向けのミニ傘を?サイズあってないだろ。それに目玉が二つピロピロしてても邪魔なだけだろ。なんて、私は疑問に思った。 それを察したのか、男はポツポツと説明をしてくれた。 なんでも、病気で死んだ娘の形見だから大事に使っているらしい。 と、そんな話を聞いて(馬鹿かコイツ?)などと思う奴がいたら、よっぽどの薄情者だろう。そして何を隠そう、私はそういう奴だった。 ……馬鹿じゃないか? ……なんで死んだ生き物に対して、そんな義理を通すんだ? ……相手は骨になってんだぞ。何やったってまるっきり無意味だろーが。 胸の内でさんざんに罵倒した。 もっとも心の声は漏れないので、男はただ紫陽花の植え込みに埋もれてぼんやりしていた野良の子供、という認識で私を見ていただけだった。そしてしばらく駄弁った後、「おまえの目の色……娘の髪の毛の色にそっくりだ。」などと都合のいいことをぶつぶつと垂れ流し、最終的に私を自宅へ連れて帰った。 色々とおかしいだろう。 突っ込みながらも、興味は持った。 興味を持ったついでに、私は男について歩きながら、彼の『魂』を覗いてみた。 そして思った。 (へえ。つまんねーの。) 男の魂は灰色で、黒いヴェールのようなものを被って、死んだ魚のような暗い光をたたえた目で地の果てを見つめていたのだ。 (なんてつまんねー目をしてやがるんだろう。) その時、私の中に何かの揺らぎが生まれたのは間違いない。 怒り?哀しみ?失望?さあ。わからない。 とにかく私は、その時から『成長』を始めた。
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