氷奏妖の歌

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————さあて、どこにいるかな。あいつ。 私は、空へ飛び立つ。 あいつは、カエルの傘を持った男。 あいつは、灰色と黒に覆われていて、途轍もなくつまんない目をした魂。 私は何百億といる命の星の海に放り込まれたって、迷うことはない。 目的地があり、地図とコンパスは私自身。 一つしか行くべき場所がないなら、それはあっという間だ。 私は、何十年かぶりに、あの男の夢枕の中へ飛び込んでみせた。真っ暗闇で重苦しい、あの面白くもなんともない墓場みたいな世界へ。 「————やあ。久しぶり。」 当然のように私が挨拶をすると、じっと地の果てを眺めていた男の魂の目が、ピクリと反応した。 私はそのポカンと口を開いた間抜けな顔を見て、ケタケタと笑った。こうして喋るのも、笑うのも、初めてのことだから男は驚いているんだろうか。 「アハハ、びっくりしてやがんの。おじちゃん私のことを忘れちゃったのかなー?いやいや、まっさかそんなことないよねー。」 「……き、み……!」 「あはは。“キミ“だって!笑っちゃう。別れ際には苛立って“オマエ“!って思い切り罵倒して言ってたくせに。」 それは……と口ごもる男は、相変わらず漆黒のヴェールを幾重にも被っている魂の姿で、なんだかとても重そうだった。 つまんないの。 そう思って、その不快感にピリッと私は眉根を寄せる。 私はふいに少し真面目な顔をした。 そして指を一本立てる。 そのまま、氷細工の如く青白い細い指を、すっと唇に持っていく。こうすればその意味は明らかだ。男は『静かに』というハンドサインにすぐに反応した。 “ねえ。……聞こえない?“ “いいから。耳を澄ませて。“ そんな、無言の私のメッセージを受け取ってくれたのだろう。 男はじっと耳を澄ませる。 目を瞑って集中していた男の目が、ふいに見開かれた。
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