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『おんがく』
男の口が動き、確かにその言葉を表した。
魂が住む、夢幻のようなこの世界。荒涼と広がる暗闇と灰色のこの世界で、ざわざわと何かが揺れていた。———否、震えていた。
見えていないだけでずっとそこにあった植物たち。虫や魚や、静かで地味な毛皮を纏った奇妙な獣たち。墓場で眠っていた彼らが、いっせいに身を震わせ喉を震わせ、その歌により大地を揺らがしていた。
ゴロゴロ。
ぐるぐる。
ガラガラ。
雨雲が湧いてくる。宇宙のような闇色の空の中央、怪しげに唸る雲は分厚い。そこをピカリ、ピカリと銀や金の糸のように閃光が走る。
ガラガラゴロゴロ、ドンガラピシャーン!!
ついにものすごい音を立てて雷が轟いた。
そして響き渡ったのは稲妻だけではない。
この不思議な世界に、雨が降り始めていた。ざあざあと、静かで切ない、でもなんだか心地よいメロディが刻まれる。綺麗にすくすくと育って枝葉を伸ばす樹木に、ぽたりぽたりトンカンポンと水が舞って踊り叩きつけられる。
「これは一体……?」
呆然と男は立ちすくんでいる。
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