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東京湾に巨大な人工島が造られた。夢の街と言われ、高層ビルが多く建てられた。
東京都24番目の区とされ、龍如区と呼ばれた。
が、羽田空港が隣接しており、空路の真下にあった。
低空飛行するジェットの騒音のせいか、一度は入った富裕層が逃げるようにして去った。後には、法的には住民と言えぬ者たちが入り込んだ。不法入国や不法滞在の外国人たちだ。彼らの生活は・・・当然、不法な物の取引が主だった。
龍如区は無法地帯と化した。
夜、ビルは照明で光るよう。その下は薄暗く、ゴミくずが風に舞い、酸っぱいニオイが漂う路地だった。
時計は12時を過ぎて、本来なら、出歩く人もいなくなるはずの頃。
傷ついた男が、よろける足取りでゴミ集積コンテナにすがりつく。
ビルから出る大量のゴミを集めるコンテナだ。ぶ厚い鉄の箱に『龍如区衛生局』の看板があった。分別ゴミの収集日を示す看板も付いている。
一説には、貧乏人ほど多くのゴミを出す・・・とか。
「へーい、グエン、どこまで逃げるんだあ?」
へらへら笑いで男たちが寄って来た。
「助けてくれ、おれは・・・おれは」
グエンと呼ばれた男は手を振る。殴られ、蹴られて、顔は血まみれだ。
「このアン・テグン様が通称グエン・ドースに判決を言い渡す」
アン・テグンと自己紹介した男が紙を広げた。
「通称グエン・ドースはベトナム出身、フィリピンから香港を経て、大阪の港に密入国した。窃盗で逮捕され、強制送還を言い渡されるも、帰国を拒否。収監施設から脱走して、今日に至る。生活費は違法薬物の売買などで稼ぎ、時には窃盗なども・・・いかんなあ」
「それくらい、他のみんなもやってる」
「他のヤツらにも、順次、罰を与えるさ。で、きさまへの判決は・・・死刑だ!」
アン・テグンは懐からタバコを出し、くわえた。
にやりと笑い、次に懐から取り出したのは拳銃だった。
バン、にぶい音が路地に響いた。
あっああ・・・グエンが腹をおさえて、身を屈める。
「てめえみたいな犯罪者じゃあ、送還しても、母国のベトナムが迷惑するだけだ。なので、あの世へ国外追放だ!」
アン・テグンが指示すると、部下の男たちはグエンを持ち上げ、ゴミ集積コンテナに放り込む。続いて、ブランデーのボトルの口を開け、投げ入れた。
懐からライターを出し、足下の紙くずを拾うと、それに火を付けた。
燃える紙くずをコンテナの中に放り入れた。
鉄製コンテナから黒い煙が上がる。
うっぷ、アン・テグンは鼻を手でかくす。
「明日はプラゴミの日だっけ? いや、この龍如区では、ゴミの分別を守るヤツはいないか」
コンテナの口から、ぼおっ、赤い炎が音をたてた。ぎゃっあああ・・・コンテナの中から悲鳴があった。
「よーし、帰るぞ」
アン・テグンは指示して、部下と共に去る。
薄闇の中で、コンテナから上がる火が辺りを照らしていた。すでに悲鳴は聞こえない。
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