3人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ
路傍は燃える家を見た。
三角の屋根が蒸気の白煙を上げていた。延焼防止で屋根に水がかけられていた。
黒煙は1階の窓から出ている。火元だろう。普通の消防士では、もう少し煙が落ち着かねば、中へ入れない。
「これは、確かにオレの出番だ」
肯いて、玄関に向かった。
外に開いた玄関ドアが傾いていた。中を見れば、靴箱が倒れて、中身が散乱している。
「これは・・・爆発だろうか。衝撃波が廊下から玄関へ抜けた。家具を倒し、玄関ドアを歪ませた」
『ガスの地中管の栓を閉じる作業をしている。間もなく、ガスは止まる』
友里から報せが来た。
「了解、中へ入る」
路傍は報告して、煙の中へ入った。
「まっ、まずい」
黒馬は画面の路傍に向かって言った。
「何が、まずいと?」
鐘本が首を傾げた。
「酸素ボンベ無しで煙の中へ行くのか。窒息するぞ」
「ああ、それなら背負ってますよ」
鐘本は路傍の背を指す。
「小さいだろ。数分も保たないぞ」
路傍の背には1型バックパックがあった。2リットルのペットボトルほどの大きさだ。
「あれは液体酸素のボンベです。気体の千倍も実容量があります」
「千倍!」
「ただし、液体なので、温度は零下160度。普通の人が背負ったら低温火傷を起こします。路傍氏の場合は、火災現場で熱くなる体を冷やし、その上で、生体部分に酸素を供給します」
「冷やして・・・」
黒馬は目をパチクリさせた。
「煙が濃い。カメラを切り替える」
右目の義眼を可視光から赤外線へ変えた。可視光では見通せなかった。赤外線では解像度が低くなるが、何も見えないよりましだ。
廊下とつながる階段を見つけた。
「要救助者は2階にいるらしい。上へ向かう」
階段を上がると、2階廊下の天井が輝くように見えた。赤外線で見てるので、温度が高い部位は光が強くなる。
「天井板の温度が100度に近い、発火寸前だ」
報告しながら奥へ進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!