ウサギ神社

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 むかしむかし、ではなく時は現代。  縁結びで有名な由緒ある神社、の近くに、寂れた小さな神社がありました。そこには小さな社と、いくつかのウサギの石像が佇んでいるだけでした。  その神社は真夜中になると、不思議なことが起きました。なんとウサギの像が輝き、白いウサギとなって動くことが出来るようになるのです。 「神社に全然観光客来ないよね。賽銭箱にお金も入れてもらえないし」 「来ても、間違えたってすぐに出て行っちゃうんだもの」  ウサギたちは日々の不満を漏らしました。それが彼らの日課でした。  あるとき、ウサギたちがいつものように神社に観光客が来ないことを愚痴っていました。それが朝まで続き、気づいたときには日が昇ろうとしていました。 「早く元の場所に戻らないと、石像になってしまう」  ウサギたちは急いで元いた台座に戻っていきました。しかし、そのうちの一匹であるウサ吉は、台座の上で転び、まるで土下座しているような体勢になって、石像に戻ってしまいました。 「自分だけ違う格好になってしまったぞ」  ウサ吉が困っているところに女子高生三人組が神社に来ました。彼女たちはウサ吉を見つけると、写真を撮り始めました。 「このウサギだけ必死にお願いしているみたいで可愛い」  そして、三人はウサ吉の前にお金を置きました。その日の夜、ウサギたちが動けるようになってお金を見ていると、五円玉が三枚置いてありました。 「お賽銭なんて、いつぶりだろう!」  ウサギたちはとても喜びました。ウサ吉は変わった格好をすれば、お賽銭をくれるかもしれない、ということに気づきました。  そして、次の日。ウサ吉は手を合わせているような格好で立っていました。すると、通りかかった観光客が彼を見つけました。 「このウサギさん、お祈りしているみたいだね」  そう言って親子連れの観光客は五円玉を置きました。それを見た他のウサギたちは、自分たちも同じようにお賽銭を置いて欲しくなりました。  次の日、ウサギたちは各々不思議な格好や体勢の石像になっていました。両手を上に伸ばしたり、寝転がったり・・・・・・。  まもなく観光客が来ると、ウサギの石像たちに喜び、お賽銭を置いていきました。さらに、変わったウサギの像があると、噂が広まり観光客がますます神社に来るようになりました。 「数え切れないくらいお賽銭があるよ!」 「これなら寂れた神社も綺麗にできるかも」  たくさん観光客が来るようになった日の夜、ウサギたちはお賽銭を見て喜びました。けれども、一匹だけは、まだ足りないと首を振りました。それはウサ吉でした。 「もっと変わった格好をして、もっとお金を集めるぞ!」  そんなある日、ウサ吉は太陽が昇る直前に片足立ちになって腕を前後に伸ばしました、さらに、口には葉っぱを咥えています。 「いくらなんでも、それは倒れてしまうんじゃないか?」  難しい体勢になるウサ吉を他のウサギたちが心配する中ウサ吉は、 「大丈夫。この体勢になれば、みんな手や葉っぱにお賽銭を乗せていくんだ」  と平気と言わんばかりに爪先立ちになりました。  そして、日が昇るとウサギたちは思い思いの体勢で観光客を待ちました。  しばらくすると、観光客がやってきて皆ウサギの石像の写真を撮ったり、彼らの前や身体にお賽銭を置いたりしました。  一番観光客が集まっていたのは、ウサ吉の石像でした。皆は面白がってウサ吉の手や葉っぱに次々とお賽銭を載せていきました。  初めは満足していたウサ吉ですが、次第にお賽銭が乗った手や葉っぱは重くなっていき、徐々に傾き始めました。  落ちそう、だけど動けない。  ウサ吉がこまっている間にもお賽銭はどんどん、どんどん増えていき、とうとうウサ吉は台座から落ちてしまいました。落ちてしまったウサ吉は地面にぶつかると、真っ二つに割れました。  周りにいた観光客は声を上げました。すぐに神社の管理人が現れ、割れたウサ吉をどこかへ運んでいきました。  ウサギの像が落ちた噂は瞬く間に広まっていき、不吉だと誰も神社に来なくなりました。  今日も誰もいない神社には、小さな社といくつかのウサギの像が佇んでいました、とさ。    おしまい
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