第一話 真夜中の出会い

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「花梨。焼酎の水割りとお通しお願い。」 「はい。かしこまりました。 直ぐ出します。」 僕は急いでお酒を作った。 今日のお通しは小松菜のナムルともやしの胡麻和えの二種類だった。 開店前に全て小鉢に入れて準備しておいた。 僕はお酒とお通しをテーブルまで運んだ。 マモルさんが声をかけてきた。 「今日は花梨ちゃんが料理人なんだね。 本当に大きくなったな…。ママに似てきたかな?」 「はい。こんばんは。マモルさんお久しぶりです。いつもありがとうございます。」 「そっか、花梨ちゃんの誕生日以来か? あの日、ママ喜んでたな…。 花梨ちゃん二十歳だろ? お酒もう飲めるよな? おじさんと一緒に飲もうよ!」 突然、マモルさんが僕の手を握って誘ってきた。 僕はびっくりしてしまった。 ママやお店のスタッフ以外で、男の人に手を握られる事なんてなかった。 でも、嫌な顔をする事は出来ない。 一瞬ドキッとしたけど、僕は笑って誤魔化した。 「マモルさん、今日僕は料理担当なんですよ… ママにしっかりやるって約束したんで、 また今度一緒に飲みましょう! あっ、ほら!マチコさんがヤキモチ妬いてますよ!」 マチコさんは何かを感じ取ってくれたようで、 マモルさんの腕に抱きついて言った。 「マモルさんったら私の事ほったらかしにしないでよ。一緒に飲みましょう。」 マチコさんが僕にアイコンタクトをしてきた。 僕はその場から離れて、カウンターに戻った。 まだちょっとドキドキしていた。 僕は自分の手を見ていた。 手を握られるだけでこんなに動揺するなんて、 僕の心は相当繊細なんだと思った。 その時だった。 またお店の扉が開き、今度はカップルのお客様が来店して来た。 その後も、何組か来店して気づいたらお店は ほぼ満席となっていた。 僕はカウンター席に座っていた、常連のライト君と話をしていた。 ライト君は大学生で、二学年上だった。歳が近いからすぐ友達になった。 明るくて話しやすい人だった。 ライト君はいつも、好きな男の子の話をしていた。 大学で気になる子が出来たようで、嬉しそうに話していた。 「花梨、聞いてよ。俺、今日告白されたんだ。」 「えっ!本当に?前から言ってた人?」 「違う…。女の子だよ…。」 「なんだ…女の子か…。ライト君の好きな人じゃないじゃん…。残念…。 えっ…それで…どうしたの?」 「勿論断ったよ…。だって俺女の子に興味ないもん…。やっぱり俺は男命だから! その子には悪いけど…ゲイって言ってやった。 そしたら、その子めっちゃひいててさ… さっきまで好きとか言ってたのに… 女って怖いよな…。 だから…俺は苦手…。」 ライト君の気持ちが痛いほど分かる。 僕も辛い思いを何度も味わってきた。 だから僕は恋をしたいと思わないのかも しれない…。 「恋って辛いだけじゃない? 何で人は恋をするの? 一人の方が楽で良くない?」 「花梨は何も分かってないな。 恋はいいぞ。勿論、辛い事も多いけど、 それ以上に幸福感が味わえる。 心が揺さぶられるような、ときめきや ドキドキが止まらないのが恋なんだ。 花梨にも味わってもらいたいな。 キュンと胸が締め付けられるような、甘酸っぱい何とも言えないような、心が踊るような ワクワク感もあって…。 とにかく恋はいいぞ!」 ライト君の目はキラキラと輝いていた。 恋の話をするライト君は可愛かった。 幸せそうだった。 僕にもいつか分かる時が来るのだろうか? 心が揺さぶられるような恋? そんな幸福感を味わってみたいと思った。
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