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「好きな人に少しでも触られただけで、俺は
ドキドキするんだ。
見つめ合うだけで、心がキュってなる。
キスなんてしたら、もうその場に立っていられなくなるだろうな…。
それ程恋は人の心を揺さぶるんだ。」
ライト君の話を聞いているとワクワクした。
恋をした事がない僕でも、いつかそんな気持ちがわかるかな?
ライト君の言ってる事が理解できるかな?
気がつけば閉店の時間が迫っていた。
深夜二時。ラストオーダーの時間だった。
「あっ、もうこんな時間か…。
俺、明日朝早いんだった!
そろそろ帰らないと…。
ん?あれ?シウくん?」
ライト君が椅子から立ち上がって、鞄を取ろうと後ろを向いた。ライト君の目線の先には、座ったまま、テーブルに顔を埋めて寝ている男性がいた。
「ん?ライト君?どうしたの?
誰?知り合い?」
「あっ、うん。俺、最近韓国語の勉強してて、
選択授業があるんだけど、
シウ君は特別講師で、韓国語を教えてくれてるんだよ。
韓国から来た留学生なんだ。
日本語はまだほとんど話せなくてさ…
勉強しながら、特別講師もしてくれてて…。
何でここにいるんだろう?
もしかして…シウ君もゲイなのかな?
一緒に来てる二人は友達かな?」
ライト君はテーブル席に座っている二人に声をかけた。
「ねぇ、君たちは同じ大学生?
シウ君の友達?」
「は?あんた誰?」
「あっ、俺は四年生のライトです。
シウ君とは選択授業が一緒なんですよ。
君達も韓国語専攻してるの?」
「俺らは、大学生じゃないよ。
シウは、俺達が働いてるラーメン屋でバイトしてんだよ。飲みに誘ってやっただけ。
でも、こいつ酒弱いみたいでな…。
寝ちまったんだよ…。
俺らも困ってんだわ…。
知り合いなら連れて帰ってよ!
じゃあ、よろしくな!」
そう言って二人は、寝ている男性を置いて帰ってしまった。
(何、あの二人…無責任だなぁ…。)
ライト君はすごく、困っている様子だった。
「シウ君?起きてシウ君!」
ライト君は何度もその人の肩を揺すって起こそうとしていた。
でも、その人は熟睡しているようで全く起きない。
仕方なく僕も、その人の側に行って大きな声で起こしてみた。
「お客様?起きて下さい。
もう閉店の時間になりますよ?」
するとその人は、僕の声に反応したのか、急に頭を上げて僕の方をジロリと見てきた。
「ヨギヌン オディイムニカ?」
その人は、寝ぼけた顔で何かを呟いた。
でも、何を言っているのかさっぱりわからない。
韓国語なのだろうか?
僕はもう一度話しかけてみた。
「お客様?大丈夫ですか?」
その人は僕の顔をじっと見つめて来た。
そしてまた、何かを呟いた。
「ソン・イェジヌン チョンサ カッタ」
その人は、何かを言ったと思ったら、突然思いもよらない行動を取ったのだ。
一瞬の出来事で僕は何が起こったのか理解が出来なかった。
気が動転していて、記憶が飛んだ。
その人が、何かを言った事は覚えている。
でも、その後の記憶が全くない。
気づいたら僕は自分の部屋のベットに寝ていたのだ。
朝、目覚めて僕は昨日の事を思い返していた。
僕は部屋に置いてある鏡に自分の顔を写した。すると突然、生々しい記憶が蘇る。僕は指で自分の唇に触れた。
「イェッポ. チョンヌネ パネ ボリョッソ」
何て言ったのかは分からない。
僕が覚えているのはこの唇の感触だけだった。
僕は、初めて男の人にキスをされた…。
それも、名前も何も知らない、日本人でもない人。そんな人に突然唇を奪われたのだ…。
好きでも何でもない人に、突然奪われたファーストキスは僕にとって、最低最悪の思い出になってしまった…。
それが彼との出会いだった。
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