第一話 真夜中の出会い

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「好きな人に少しでも触られただけで、俺は ドキドキするんだ。 見つめ合うだけで、心がキュってなる。 キスなんてしたら、もうその場に立っていられなくなるだろうな…。 それ程恋は人の心を揺さぶるんだ。」 ライト君の話を聞いているとワクワクした。 恋をした事がない僕でも、いつかそんな気持ちがわかるかな? ライト君の言ってる事が理解できるかな? 気がつけば閉店の時間が迫っていた。 深夜二時。ラストオーダーの時間だった。 「あっ、もうこんな時間か…。 俺、明日朝早いんだった! そろそろ帰らないと…。 ん?あれ?シウくん?」 ライト君が椅子から立ち上がって、鞄を取ろうと後ろを向いた。ライト君の目線の先には、座ったまま、テーブルに顔を埋めて寝ている男性がいた。 「ん?ライト君?どうしたの? 誰?知り合い?」 「あっ、うん。俺、最近韓国語の勉強してて、 選択授業があるんだけど、 シウ君は特別講師で、韓国語を教えてくれてるんだよ。 韓国から来た留学生なんだ。 日本語はまだほとんど話せなくてさ… 勉強しながら、特別講師もしてくれてて…。 何でここにいるんだろう? もしかして…シウ君もゲイなのかな? 一緒に来てる二人は友達かな?」 ライト君はテーブル席に座っている二人に声をかけた。 「ねぇ、君たちは同じ大学生? シウ君の友達?」 「は?あんた誰?」 「あっ、俺は四年生のライトです。 シウ君とは選択授業が一緒なんですよ。 君達も韓国語専攻してるの?」 「俺らは、大学生じゃないよ。 シウは、俺達が働いてるラーメン屋でバイトしてんだよ。飲みに誘ってやっただけ。 でも、こいつ酒弱いみたいでな…。 寝ちまったんだよ…。 俺らも困ってんだわ…。 知り合いなら連れて帰ってよ! じゃあ、よろしくな!」 そう言って二人は、寝ている男性を置いて帰ってしまった。 (何、あの二人…無責任だなぁ…。) ライト君はすごく、困っている様子だった。 「シウ君?起きてシウ君!」 ライト君は何度もその人の肩を揺すって起こそうとしていた。 でも、その人は熟睡しているようで全く起きない。 仕方なく僕も、その人の側に行って大きな声で起こしてみた。 「お客様?起きて下さい。 もう閉店の時間になりますよ?」 するとその人は、僕の声に反応したのか、急に頭を上げて僕の方をジロリと見てきた。 「ヨギヌン オディイムニカ?」 その人は、寝ぼけた顔で何かを呟いた。 でも、何を言っているのかさっぱりわからない。 韓国語なのだろうか? 僕はもう一度話しかけてみた。 「お客様?大丈夫ですか?」 その人は僕の顔をじっと見つめて来た。 そしてまた、何かを呟いた。 「ソン・イェジヌン チョンサ カッタ」 その人は、何かを言ったと思ったら、突然思いもよらない行動を取ったのだ。 一瞬の出来事で僕は何が起こったのか理解が出来なかった。 気が動転していて、記憶が飛んだ。 その人が、何かを言った事は覚えている。 でも、その後の記憶が全くない。 気づいたら僕は自分の部屋のベットに寝ていたのだ。 朝、目覚めて僕は昨日の事を思い返していた。 僕は部屋に置いてある鏡に自分の顔を写した。すると突然、生々しい記憶が蘇る。僕は指で自分の唇に触れた。 「イェッポ. チョンヌネ パネ ボリョッソ」 何て言ったのかは分からない。 僕が覚えているのはこの唇の感触だけだった。 僕は、初めて男の人にキスをされた…。 それも、名前も何も知らない、日本人でもない人。そんな人に突然唇を奪われたのだ…。 好きでも何でもない人に、突然奪われたファーストキスは僕にとって、最低最悪の思い出になってしまった…。 それが彼との出会いだった。
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