第二話 初めての言葉

1/9
前へ
/57ページ
次へ

第二話 初めての言葉

「どうしよう…。マチコさん…。ママに何て言えばいいんですか?」 「もう、起きてしまった事は仕方ないよ…。 正直に言おう…。」 「えぇ⁈自分言えないっすよ…。 ママの怒る顔が目に浮かぶっす…。」 僕はお店の階段下で、こっそり二人の会話を聞いていた。 多分二人は僕の身に起きた事を話しているのだと思う。店に出て行きたくても何故か体が動かなかった。 僕はしばらく階段に座り込んでいた。 すると、お店の扉が突然開いて、ママとミカさんが帰って来た。 「ただいま。花梨ちゃん!帰って来たわよ!」 「あっ、ママ…。おっ…お帰りなさい…。」 「もう、ミドリったらずっと花梨の事ばっかり心配して、落ち着きがなかったのよ…。せっかくの温泉だったのに…。」 「あれ?花梨ちゃんは? まだ寝てるのかしら?」 僕は、お店の階段下の扉から様子を見ていた。 マチコさんとランさんが困った顔をしていた。 「ママ…。花梨の事なんだけど…。 実は…。」 マチコさんが、昨日の事をママに話そうとしていたから、僕は思わず扉から飛び出した。 二人には、迷惑をかけたくなかった。 ママには自分で話した方がいいと思った。 「ママ!ミカさんお帰りなさい!」 「あーん!花梨ちゃん!会いたかったわ!」 ママが僕に抱きついてきた。 僕は、とても複雑な気持ちだった。 「ママ…。たった一日でしょ…。 もっとゆっくりして来れば良かったのに…。」 ミカさんもガッカリした顔で言った。 「本当にその通りよね…。 私はゆっくりしたかったのよ…。 まぁ、仕方ないわね…。 花梨への愛には勝てないわ…。」 「ママ…実はね…昨日…。」 僕は、ママに昨日の出来事を全て話した。 ママとミカさんはなかり驚いていた。 「なっ…何ですって⁈」 僕の話を聞いてママは、マチコさんとランさんの事を睨みつけた。 「あんた達!どういう事なの?」 「ママ!マチコさんとランさんは接客してたし、何も悪くないよ! 悪いのは油断した僕だから。 二人の事は怒らないであげて!お願い。」 「なんて優しい子なのかしら…。 それにしても…そいつは何者? 私の愛する花梨ちゃんに、いきなり手を出すなんて…。 許さないから!」 僕の話を静かに聞いていた、ミカさんが言った。 「ミドリ…。私思うんだけど…確かに突然キスするのはどうかと思うけど…それって恋の予感なんじゃないの? ミドリだって、花梨と恋バナがしたいとか言ってたじゃない!」 「なっ、何言ってるのよミカ! 花梨ちゃんが…こっ、恋⁈ 確かに恋バナはしたいわよ…でも… そんな突然唇を襲うような子なんて、信じられないわ…。」 「だって、それって花梨に一目惚れでも、したからなんじゃないの? 花梨は可愛いんだから、ありえる話だと思わない?所で、その子可愛かった?」 皆んなの視線が僕に集まった。 僕は困ってしまった。 でも、考えてみると突然の事過ぎてほとんど顔も覚えていなかった。 可愛いかどうかなんて分からない…。 その時は頭が真っ白になっていたからだ。 ただ、覚えているのは唇が柔らかかった事と 肌の色だけだ。 透明感のある透き通った白い肌だった。 「肌は透明感のある白だった。 あと…唇はマシュマロ…みたいな…。」 「えっ?マシュマロ? 花梨ちゃん…どういう事なの?」 「初めての事で、僕も分からないけど…柔らかい感じ?」 ママは、絶望的といった顔で頭を抱えて、落ち込んでいるようだった。 それに対して、ミカさんは楽しそうな顔で、萌えていた。 「キャ〜! イイわね!韓国人なんでしょ? お肌触りたいわ。 きっとスベスベよね! 私、韓国人好きなのよね! ドラマに出て来る子はみんな可愛くて、 食べちゃいたいぐらいだわ!」 「ミカ!あんたの好みはどうでもいいのよ! 花梨ちゃん…あなたはどうなの? そいつの事気になるの? 可愛かったの?」 「そんなの分かんないよ…。顔だってハッキリ覚えてないし、一瞬の出来事だったし… 気になるとかないから! もう…いいでしょ? この話はもうやめようよ。」 とにかく僕は、初めての事で戸惑っていた。 僕は、急に恥ずかしくなってその場から逃げ出してしまった。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加