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「一目惚れは悪い事じゃないよ。
花梨を見てビビッと来るものがあったんじゃないかな?」
僕はライト君に言われた事を思い返していた。
(ビビッと来るものか…。そんなの…ないよ…
だって…今まで一度も感じた事ないし…。)
僕は、一人で考え事をしながら、お店の開店準備を手伝っていた。
何故か、あの日のキスの光景が頭に浮かんでしまって、気づいたら大きな声を上げていた。
「ハッ!何⁈何で…こんな事思い出すの!やめてよ!」
「花梨?花梨⁈何?どうした?」
「えっ?何が?」
僕はお店の開店準備をしながらぼーっとしていたのだ。マチコさんが不思議そうな顔で僕を
見つめて来た。
「花梨…。ぼーっとしてどうしたの?
さっきから同じ所ばっかり拭いてるよ。」
僕は布巾でテーブルを掃除していた。
マチコさんの言う通りずっと上の空で働いていたのだ。
お店にはマチコさんと僕しか居なかった。
他の三人は買い出しに出掛けていた。
僕はマチコさんに相談をしてみた。
「あのね…ちょっと聞きたいんだけど…
マチコさんは一目惚れってした事ある?」
僕の質問にマチコさんはかなり驚いていた。
「えっ⁈花梨⁈どうした?
花梨の口からそんな言葉が出て来るなんて…
えっ?まさか…花梨…。
遂に恋しちゃったのか?」
「ちっ、違うから!そんなんじゃなくて…
その…友達が…変な事言うから…
友達が…一目惚れしたとか言ってたから…
そんな事ってあるのかなって…
気になっただけで…
だから…一目惚れって…一般的なのかなって…その…もう…分かんない…。」
僕は、自分の言葉に恥ずかしくなってしまった。かなり顔が赤くなっていたと思う。
マチコさんはそんな僕を見て微笑んでいた。
「私も一目惚れした事あるよ。
若い頃だけどね…。
今思えば、その人が初恋だったのよ…。
一つ上の先輩だったんだけどね、
凄く優しくて、素敵な人だったわ…。
私がまだ男だった頃の話よ…。
テニス部で練習中に怪我をしてしまってね、
誰よりも一番に私の所に駆けつけて来てくれて、助けてくれたのよ…。
小柄だった私をお姫様抱っこしてくれてね、
保健室まで運んでくれたの。
その時の彼の真剣な顔が、本当に素敵でね、
今でも忘れられないわ。
でも、その恋は実る事はなかったけどね…。私にとってはいい思い出よ。
人の感情って不思議よね…。
心が動くことなんて一瞬なんだから。」
「マチコさんも一目惚れした事あるんだね…
そっか…そんなに素敵な人だったんだ。
実らなかったって言ってたけど…マチコさんはその人に告白はしたの?」
マチコさんは僕の質問に、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
僕は余計な事を聞いてしまったのかと思って、
謝ろうとした。
でも、マチコさんは笑って答えてくれた。
「告白はしてないのよ…。
その人には、彼女がいたからね…。
私は男…。心に蓋をしてしまったわ…。
でも、好きな人が幸せなら、私はそれで良かったと思っているわ。
まぁ、昔の話よ!
今は、自由に働けるこの場所に居られて、
とっても幸せよ!男に苦労もしてないしね!
花梨は、私みたいに諦めちゃダメよ!
後悔だけはしないでね!」
(自分の好きな人に、好きな人がいるって…
僕には分からないけど、きっと辛い事なんだろうな…。)
僕は恋をした事がなくて、マチコさんの気持ちを理解してあげる事はできなかった…。
(好きってどんな気持ちかな?
僕もいつか、恋をするのかな?)
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