銀貨の僕は彼女のポケットで夢をみる

13/14
前へ
/14ページ
次へ
「お二人には感謝しかありません。本当に……。あの……これは御礼です」  リサはポケットの中に手を突っ込んできたかと思うと、僕を取り出した。  そして、僕はリサの手を離れて、誰かの掌の上に乗った。 「これは――?」  ノエルの声だった。僕はノエルに手渡されたらしい。 「王宮の方にできる御礼なんて私は何も持っていないんですけど、その500レニー銀貨はすごいんですよ?」 「というと?」 「お守りの効果として絶大なんです。この銀貨のおかげで、どんなことが起きても私は生き延びることができました。お二人はこれからも危ない場所へ向かうんだと思います。その無事をお祈りしたくて、お渡しします」  僕はただの500レニー銀貨だ。伝説のアイテムのような効果は何もない。  でも、リサは、僕をお守りだと言ってくれる。  それはとても嬉しいことだ。  そんな僕をリサは手放そうとしている。それは悲しむことではないのだろう。それほどまでにリサは感謝しているっていうことなんだから。誇らしく思ってもいいのかもしれない。 「そんな素敵な効果があるなら受け取れないです」  サキがノエルの掌から僕を拾い上げる。そして、僕をリサに返そうとするが、リサは両手を腰の後ろに隠し、受け取りを拒否する意志を示した。 「これからも……私のような子をたくさん救ってくださいね!」  そう言って、リサは身を翻したかと思うと、勢いよく走り出していってしまった。  遠ざかっていくリサの後ろ姿を見ながら、 「いい子だなぁ」 「そうですね」  と二人は言った。  サキは、ノエルの手に僕を戻すと、周りの兵に「紙と書くものを」と声をかけた。  兵はすぐに紙を持ってきた。サキは椅子に腰かけて、兵が持ってきた紙を机に置き、何やらサキは書き始めた。 「よし」  と言って立ち上がると、またノエルの掌から僕を取り出した。そして、持っていた紙で僕を包み始めた。 「ノエル、お願いが」 「はいよ。って、私は配達屋じゃないんですけど?」  ノエルはサキが何をしようとしたかわかるらしい。 「魔法使いの配達屋なんて洒落てますね」 「便利屋扱いされてるようにしか感じないけどね」 「お願いします」 「まぁ、あの子のためだしね。わかったよ」  何を話しているのか紙に包まれた僕からはよくわからかった。そんな僕に気づくこともなく、ノエルは何か呪文を唱え始めた。 「これからもあの子を守ってあげてくださいね」  サキの声が聞こえたかと思うと、僕は急に空中に浮いたような感覚があったかと思うと、今度は落ちるような感覚があった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加