59人が本棚に入れています
本棚に追加
*
避難所を出たリサは走った。力の限り走った。
角を曲がったとき、リサは急に止まった。
「あ、ああ……」
彼女の指の隙間から見えたもの、それは昨日とは違う風景だった。
昨日まであったはずの彼女の家は瓦礫の山と化していた。
「お母さん! ユイ!」
リサは母と妹の名前を叫んだ。
「リサ……」
瓦礫の隙間から声が聞こえた。母親の声のようだった。
「お母さん! どこにいるの!?」
リサが声の方向へと駆け寄る。
「ここに……いるわ、ユイも一緒にいる……でも……」
目の前にはいくつもの瓦礫が折り重なっていた。リサの母と妹は瓦礫の中に生き埋めになっているようだった。
「いま助けるから!」
リサは叫び、僕をポケットに入れた。
瓦礫を動かそうとしたようだったが、幼いリサの手で瓦礫が動かせるはずもなかった。どう考えても大人の力が必要だ。誰かに救いを求めたほうがいい、そう言いたかった。
そんなときだった。
数人の大人が走って来る声がした。リサ、あの人たちに助けを求めるんだ。そうすれば母とユイも助けてもらえるはずだ。
「すいません! 母と妹がこの中に!」
ああ、よかった。これで助けてもらえる、ポケットの中で安堵していた僕に信じられない声が聞こえてきた。
「何を言ってるんだ! 町長の屋敷が最優先だ!」
「我が軍に多額の寄付金をしてくれてるんだぞ!」
「オマエの家など後回しに決まってるだろう!」
ああ、人間とはこんなにも醜い生き物なのか。
そう言っている僕も人間に造られたものなのだけど。僕が火の弾丸だったらこの大人たちに突っ込んでいったのに。
最初のコメントを投稿しよう!