銀貨の僕は彼女のポケットで夢をみる

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*  避難所を出たリサは走った。力の限り走った。  角を曲がったとき、リサは急に止まった。 「あ、ああ……」  彼女の指の隙間から見えたもの、それは昨日とは違う風景だった。  昨日まであったはずの彼女の家は瓦礫の山と化していた。 「お母さん! ユイ!」  リサは母と妹の名前を叫んだ。 「リサ……」  瓦礫の隙間から声が聞こえた。母親の声のようだった。   「お母さん! どこにいるの!?」  リサが声の方向へと駆け寄る。 「ここに……いるわ、ユイも一緒にいる……でも……」  目の前にはいくつもの瓦礫が折り重なっていた。リサの母と妹は瓦礫の中に生き埋めになっているようだった。 「いま助けるから!」  リサは叫び、僕をポケットに入れた。  瓦礫を動かそうとしたようだったが、幼いリサの手で瓦礫が動かせるはずもなかった。どう考えても大人の力が必要だ。誰かに救いを求めたほうがいい、そう言いたかった。  そんなときだった。  数人の大人が走って来る声がした。リサ、あの人たちに助けを求めるんだ。そうすれば母とユイも助けてもらえるはずだ。 「すいません! 母と妹がこの中に!」  ああ、よかった。これで助けてもらえる、ポケットの中で安堵していた僕に信じられない声が聞こえてきた。 「何を言ってるんだ! 町長の屋敷が最優先だ!」 「我が軍に多額の寄付金をしてくれてるんだぞ!」 「オマエの家など後回しに決まってるだろう!」  ああ、人間とはこんなにも醜い生き物なのか。  そう言っている僕も人間に造られたものなのだけど。僕が火の弾丸だったらこの大人たちに突っ込んでいったのに。
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