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【3】
「あー、雪! やだなあ、積もらなきゃいいんだけど」
帰り道に圭亮が、今冬初めての雪に気づいた日の夜。
二階の自室から飲み物を取りに降りて来た真理愛が、キッチンの窓の向こうにちらつく白いものに気づいて独り言を零す。
「なんだよ。前は雪降ったら喜んでたじゃないか、『雪だるま作ろー!』とかって」
「はぁ!? いつの話してるのよ、パパ」
圭亮の脳天気な感想に、先日十五歳になったばかりの娘が呆れたように返して来た。
「……確かに小っちゃい頃はただ嬉しかったけどさぁ。積もったり道凍ったりしたら危ないじゃん。去年、あたしのクラスの友達が登校中に滑って転んで怪我したんだよ。骨にヒビ入っただけで折れてなかったからまだよかったけど、しばらく松葉杖だったんだから」
「そりゃお気の毒に、って他人事じゃないなぁ。パパも何度かヒヤッとしたことあったしさ。雪だと通勤も大変だし、正直面倒だと思ってるよ。まず寒いしな」
真理愛はもう、雪を見て無邪気にはしゃいでいた幼い子どもではないのだ。改めて実感する。
「でも真理愛に作ってもらった雪だるま、パパ今でも覚えてるんだ。おじいちゃんが撮った写真もあるけど、見る必要ないくらいだよ。毎年腕が上がって行ったよな」
何気なく口にした圭亮に、娘は一瞬驚いたように目を見開いた。
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