ふたりだけの部屋

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シャワーを浴びながら考える。 こんなによくしてもらっていいんだろうか。 なにかお返しをしようにもなにもできない。 柾さんは俺になにを求めているんだろう。 なんの見返りも求めていないって事はないだろう。 あとからすごい高額な請求書を渡されたりして。 ていうかこれ、なんかの詐欺かも。 「……」 詐欺でもいい。 こんな幸せな時間があるなら、騙されてもいい。 どうせ失うものなんてない。 とことん騙されよう。 シャワーを終えると柾さんが交代で脱衣室に入った。 仮にも“誘拐”なら、柾さんのシャワー中に俺が逃げちゃうとか思わないのかな。 …そっか、逃げたところで俺に行き場がないのを柾さんは知ってるから、心配なんてしてないのかも。 もしかしたら俺は逃げないって信じてくれてるの、かも。 「……」 『聖、誰だよ? このメッセージの相手』 『会社の人だよ』 『その割には仲良さそうじゃん』 『そんな事ない』 『そうやって聖はいつもいつも…!』 俺のスマホをチェックしては怒って祥吾はスマホを床に叩きつけるから、保護用のガラスフィルムは絶対貼るようにしていたし予備はいつも買い置きがあった。 たぶん俺、保護ガラスフィルムを貼るのはかなりうまいと思う。 祥吾は俺の事を全然信じてなかったんだろうな。 いつからか俺も祥吾を信じられなくなっていたからお互いさまか。 信じられなくても祥吾から離れられなかった俺を、強引に引き離してくれた柾さんは本当にすごい。 ベッドに座って柾さんを待つ。 大きいベッド。 あれ、やっぱり一緒に寝るんだよね? ていう事はそういう事? どきどきし始める。 俺、特に床上手ってわけじゃないし、祥吾には喘ぎ声が可愛くないって言われたし、そんなんでもいいのかな。 柾さんはかっこいいから経験豊富そう。 「……」 経験、豊富なんだろうなぁ…。 なんだかもやっとする。 柾さんから借りたスウェットからは柾さんの優しいにおいがしてどきどきするのに、このにおいを深く知っている人がいると思うとそれももやっとする。 まだ初めて会ってそんなに経っていないのに、柾さんを独占したい俺がいる。 「どうしたの?」 「えっ!?」 いつの間にか柾さんが戻ってきてる。 俺の隣に座り、顔を覗き込むので慌てて視線を逸らす。 「悩み事? 心配な事があるなら聞こうか?」 「いえ…ちょっと」 「なに?」 心地好い声。 なんでこんなに優しい話し方ができるんだろう。 「…柾さんは、経験豊富なのかなって思って」 「経験豊富?」 「あの…そういう意味で」 「ああ」 柾さんが笑い出す。 それからそっと俺に唇を重ねてきた。 「ん…あ…」 「こういう事?」 「…はい、んっ」 舌が絡め取られて呼吸が交わり、思考がとろんとしてくる。 「そんな経験なんてほとんどないよ」 「嘘」 「聖くんのほうが経験豊富なんじゃない?」 「俺なんて全然だめです…」 俯こうとしたら顎を持たれて唇をぺろりと舐められた。 「そう? じゃあ試してみようか」
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