ふたりだけの部屋

「あ…」

スウェットの中に手が入ってきて、胸の突起に触れる。
転がすように触れられ、ぞくぞくする。
丁寧な指使い。
きゅっと突起をつままれれば小さく声が漏れてしまう。

「ほら、慣れてる」
「慣れてなんか…っぁ」

唇が重なって吐息を呑み込まれる。
頭のうしろを持たれて深く舌が絡まる。
苦しいくらいなのにかえってそれが気持ちよくて身体の芯が疼いてしまう。
下のスウェットをするりと脱がされて、期待にぴくりと身体が震えた。
でも。

「ごめ、なさ…」
「聖くん？」
「俺、声…可愛くな…っ、あ…っ！」

昂りをやんわり握られて声が跳ねる。
ゆっくり扱かれて腰がゆるゆる揺れる。

「可愛いよ、聖…」
「あ…や…」

奥まった蕾へ柾さんの指が滑り、何度もなぞられる。
なかなかそこから進まなくてそれが焦れったくて柾さんの唇にかぶりつくようにキスをすると、期待の通り指が挿入ってきた。
祥吾と違い、すごく丁寧にほぐされて一本ずつ指を増やされる。

「っ…あ、あ」

ベッドに優しく寝かされて指が奥へと進む。
全ての手つきが優しい。
そんなに優しくされたら自分が壊れ物になったような錯覚に陥ってしまう。

「…まさきさん…もう、いれていいですから…」

俺が柾さんの熱に触れると既にすごく昂っている。
こんな俺で興奮してくれている…それだけで身体が熱くなる。

「まだだめだよ。彼氏はそんなにすぐ挿れてたの？」
「……はい」

だって祥吾が気持ちよくなるのが優先だったから。
むしろ準備していない俺が悪いって怒られた。

「そう…。そんな男、早く忘れようね」
「ああっ！！」

痺れるような感覚に全身がガクガクする。
柾さんの手を掴むけれど、柾さんは指の動きを止めずに同じ場所を刺激し続ける。
そこが気持ちいいのは知っているけれど、こんな…頭がおかしくなるほどの快感が襲ってくるなんて、こんなの知らない。

「あっ！　あ、あっ！！　むり、やめて…！」
「大丈夫、無理じゃないよ」
「や、こんな…ああっ！！　あ、あっ！！」

声は可愛くないし、こんなに気持ちいいのはおかしい。
柾さんはじっと俺を見ている。

「っ…、こわい…！　やっ！　あっ！！」

身体がガクガク震えてお腹に生温かいものが散る。
熱い…熱い。
力が入らない。
ぐったりした俺を柾さんは熱い瞳で見つめる。

「気持ちよかった？」
「…まさきさ…」
「もう一回イこうか」
「っ！？　あ、ぅっ！」

また柾さんは同じ場所を押す。
もう無理だと言っても刺激を止めてくれない。
ナカで指が意地悪に動き続けて俺を追い詰める。

「だめ…あっ！　あっ！　ひぁっ！！」
「聖がたくさん気持ちよくならないとだめなんだよ」
「きもちい、からぁ…っ！　も、や…っ！　ぅあっ！！」

また達した俺に柾さんが唇を重ねる。
指がゆっくり抜かれて、熱いものが宛がわれる。

「…挿れるよ」

俺が頷くのを待っている。
そっと頷くと指と違う大きさのものが奥へと進んできた。
俺が息を詰まらせると動きを止めてキスをくれる。

「だいじょ、ぶ…だから…はやく…」
「聖…」
「はやく…まさきさん…」
「あんまり煽らないで」

ぐっと一気に奥までいっぱいになり、仰け反りながら達した俺の首を柾さんがちゅっと吸う。
首や鎖骨、胸や肩にちゅ、ちゅとリップ音を立てながらキスを繰り返される。
それだけでも身体が跳ねるのに、柾さんは動いて気持ちいいところを擦るから俺はおかしくなる。

「…やっぱり聖はすごく可愛くて綺麗だ」
「…？　あっ！　あ…だめ、そこ…っ！」
「ここ？」
「あ、ああっ！！」

奥をぐりぐりと擦られて腰が跳ねる。
目の前がチカチカして暴れる快感が止まらない。

今、『やっぱり』って言った…？
柾さんとどこかで会った事ある？
考えたいのに頭が回らない。
気持ちいいしかわからない。

「可愛いね、聖…可愛い」
「あっ、またイく…また…っ！」
「いいよ」

汗ではりつく前髪をよけて俺の額にキスをしながら柾さんが俺を追い詰める。
快感の渦に巻き込まれる感覚に身を震わせて柾さんにしがみ付くと、柾さんは俺をしっかりと抱き締めてくれた。

「―――っ！！」

また達した俺の涙を柾さんが舐めとる。
その小さな刺激さえも気持ちいい。

「まだ頑張れる？」
「あ…は、い、まさきさんも、よくなって…」
「ありがとう…」

そうか。
セックスってふたりで気持ちよくなるものなんだ…。
知らなかった。

「っあ！　あ、っう…！　あ、あ！」
「聖…」

余裕のない瞳の柾さんが噛みつくように口付けてくる。
必死で応えながらしがみ付いて柾さんを受け止める。
また限界の波が押し寄せてきて、頭の中が真っ白になっていく。
舌を絡ませ合いながらふたりで昇り詰める。

「っ！　ん、んぅっ！！」
「…っ！」

一緒に達せた事が嬉しい。
身体にかかる柾さんの重みもすごく嬉しい。
キスを解かずにそのまま荒い呼吸を交わらせ続ける。
柾さんが唇を離そうとするので、俺は柾さんの首に腕を回してキスを止めさせない。

「ん、んぅ…は…ふ」

柾さんは俺が満足するまでキスを続けてくれた。
こんな甘やかし方されたら、のめり込んでしまう。

「…よく車であの公園の前を通る事があるんだけど、聖を何度か見かけた事があるんだよ」

キスの合間に柾さんが言う。

「そうなんですか…？」
「うん。いつも暗い公園でひとり寂しそうにベンチに座ってて、儚い感じがすごく綺麗だなって思ってた」
「…儚い」

怪しいの間違いじゃないのか。
柾さんって言葉選びが上手だな…。

「でも笑ったらきっと可愛いんだろうなって」
「すみません…こんなので」
「こんなのって言わないの」

ちょっと怒った顔を見せる柾さん。
俺が素直に『ごめんなさい』と言うと、甘いキスをくれた。

「見かけるうちにね、そのうち…すごく気になるようになって、攫ってしまいたいって思うようになったんだよ」
「攫って…」
「だから誘拐できて嬉しい」
「……」

本当に満足気な微笑みにどきどきする。
こんな俺を攫いたいと考えていてくれた人がいたなんて思ってもみなかった。

「俺の腕の中では想像以上に聖は可愛くて綺麗で、すごくどきどきする」

俺は可愛くなんてない。
綺麗なんかじゃない。
それなのに柾さんにとっては“可愛くて綺麗”が真実。
不思議。
こんなに満たされてる。

「…柾さん、抱き締めてください」
「うん。こう？」
「もっと強く」
「これくらい？」
「もっと…」

ぎゅっときつく抱き締めてもらって目を閉じる。
この人の腕の中にいたい。
天気も日付も時間もわからない部屋の中で、ただこの人とふたりでいたい。