ふたりだけの部屋

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「…?」 視線を感じて目を覚ます。 隣には柾さんがいて、俺をじっと見ている。 「おはよう、聖くん」 「…おはようございます」 もう『聖』って呼んでくれないのかな…。 ちょっと寂しい。 「どうしたの? 聖」 「!」 柾さんの口から飛び出した『聖』に心臓が高鳴る。 「…俺の心、読んだんですか?」 「読んでないよ」 「じゃあなんでわかったの?」 「なにが?」 「俺が『聖』って呼んで欲しかったの」 どきどきどきどき。 柾さんが優しく俺の髪を撫でる。 「そうなんだ?」 「やっぱりわかってた」 「そんな事ないよ」 「嘘」 「聖に嘘なんて吐かない」 「…ふふ」 なにこのやりとり。 幸せ。 会ってまだそんなに経ってない人なのに、柾さんはすっと俺の心に入ってきた。 …いや、俺がずっと柾さんを求めていたのかも。 「聖は呼んでくれないの?」 「え?」 「『柾』って」 「!」 柾…。 また脈が速くなる。 「ま、柾…」 「なに? 聖」 「柾」 「うん」 「柾…」 俺の幸せは柾の腕の中にあるんだ、きっと。 「お腹空いてない? なにか作ろうか」 「あ、俺が作ります。簡単なものなら作れるから…」 「いいから。聖に俺の作ったもの、食べてもらいたい」 「…はい」 スウェットを着る柾の背中を見つめる。 ひっかき傷がある…俺がつけたんだ。 綺麗な背中に残る赤い痕に色々思い出して顔が熱くなってくる。 そういえば柾の仕事は大丈夫なんだろうか。 …聞こうかと思ったけどやめた。 だって柾の頭の中に俺以外が入るのが嫌だったから。 「なにが食べたい?」 俺の思考にも余計なものを入れたくないというように、柾は食事の話題を振ってきた。 たぶん、俺が別の事を考えていた事に気付いている。 「パン? ご飯?」 「…パン」 「わかった。聖はゆっくり起きておいで」 「はい…」 優しいキスを残して先に寝室を出ていく柾。 俺は触れた唇をなぞって胸が高鳴るのを抑えられない。 初めての恋のようなどきどき。 「柾…」 名前を呼ぶだけで心臓が跳ねる。 こんなのまるで小学生みたい。 テーブルには温野菜のサラダとベーコンエッグ、トーストとコンソメスープが。 「おいしそう」 「簡単なものだけど」 「ううん。十分…ありがとう」 ふたりでいただきますをして食事をする。 これは朝ご飯みたいだけど今が何時かはわからないから、もしかしたら正しくは朝ご飯じゃないかもしれないけど、柾と俺には朝ご飯。 「ご飯食べたらシャワー浴びておいで」 「はい…ん」 柾が俺の口元を拭ってその指を舐める。 また顔が熱くなる。 「すみません…」 「可愛いね、聖」 「……」 また眠くなる。 思考がとろとろに蕩けてしまう声にうとうとしてくる。 「寝るのはご飯食べてからね。シャワーは起きてからにしようか」 「…はい」 柾の魔法の声。 この声で話されたらどんなにひどい不眠症の人でも一発で眠りに就いてしまうんじゃないだろうか。 食後、俺はもう睡魔に勝てずにテーブルに突っ伏してしまった。 ずっと髪を撫でてくれる優しい手の感覚。 遠くに聞こえる心地好い声。 「可愛い聖…俺の聖」 俺を本当に必要としてくれて、しかも大切にくれる人がこの世にいた。 こんな幸せ、知らなかった。 ◇◆◇ 今はいつ? さっき食べたのが柾と俺にとって朝ご飯だから昼過ぎくらい? 一般的には? 朝? 昼? 夜? わからない。 「柾…」 俺のあとにシャワーから上がった柾に擦り寄ると、柾が抱き留めてくれた。 「どうしたの?」 「……」 「もしかしておねだりしてる?」 ゆっくり頷くと、額にキスが落ちてきた。 「身体辛くない?」 「…それより柾が欲しい」 柾の首に腕を回すと、柾のほうからキスをくれた。 ぢゅうっと舌を吸われて腰が震える。 下着の中に手がするりと入ってきて奥まった部分をなぞり、指先がナカへ滑り込んだ。 「まだやわらかいね」 「ん…あ…あ」 「可愛い声…もっと聞かせて」 可愛くなんかないのに。 眠くなる柾の声が、興奮する声に変わる。 「聖…」 耳元で甘く囁かれる度にゾクゾクが背筋を駆け上がる。 力が抜けていって、柾の指がまた俺の弱い場所をとんとんする。 「あ、あぅ、あ! ああっ!」 「気持ちいいの、もっと覚えないとね」 「っまさき、…あっ! ぅあ…!」 柾は器用に片手で俺の履くスウェットと下着を脱がせる。 昂りを扱きながらナカを弄られて頭がおかしくなりそうになる。 「聖…俺のものになってくれる?」 甘い言葉。 これに頷かないなんて絶対無理。 「…柾のものにして…」 俺から唇を重ねると、食べ尽くされそうなキスに変わった。 呼吸さえままならない。 ただ必死に柾にしがみつくと、指が抜かれて昂りが奥へと滑り込んできた。 キスから解放されずにきつく抱き締められたまま弱い場所をひたすら責められる。 快感に身を捩る事も喘ぐ事もできない。 全てを呑み尽くされる。 「んんぅ…んっ! んぁ、ふぁ…ぅん…! あ、っあ!」 「聖、好きだよ」 その言葉が鼓膜に響いた途端にぶわっと体内に一瞬で駆け巡る。 言葉さえ快感になる。 こんな悦びも知らなかった。 「まさき、すき…おれも、すき…」 出逢ってからの時間がまだ短いとかそんなの関係ない。 好きだと感じたから好き。 ただそれだけ。 必要とされているから満たされる。 必要だと思ったから求める。 シーツを乱す俺を柾が追い詰めていく。 「あ! も、イく…! あ、あっ…っああ!!」 白濁が散って柾が顔を歪めながらすぐ動く。 待ってと言っても柾はキスをしながら動いて次の限界へと昇らせていく。 柾と俺には時間なんてないから、いつまでも求め合える。
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