9. 家族

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9. 家族

 五年後。 「父さん、母さんの命日、墓参り行くよね?」 「ああ、休み取ってるよ。それより真守、今日は夜勤だから夕飯は自分でなんとかしてくれ。金はテーブルに置いてあるから」 「うん。わかった! いってらっしゃい」  黒石は変わらずタクシー会社で働いていた。ただし夜勤専門はやめ、通常シフトに入っていた。家族ができたのだから、この方がいい。  部屋も一間のアパートから、少し古いが各々個室が持てる2DKの部屋に引っ越した。真守は今年、高校受験だ。  山野が逮捕されたあと、黒石は真守を預かり、真守の母親の面倒を見た。  病状は一進一退だったが、退院したら三人で暮らそうと黒石が話すと、彼女はそれを支えにつらい治療に耐えた。  治療の甲斐なく余命を宣告された時、黒石は彼女の希望を聞いて退院させ、在宅で真守と一緒に彼女を看取った。亡くなる前に婚姻届も出した。 「そこまでしてもらっては申し訳ないわ……」  そう言って彼女は泣いたが、真守の将来のためにもこれが一番いいんだと説得した。  二人は正式に夫婦となり、真守とも養子縁組をして黒石姓を名乗らせた。それを見届けた妻は、安心して穏やかに最期を迎えた。  束の間の三人暮らしで、黒石は家族がいる幸せを初めて味わった。その気持ちは、真守と二人になった今でも続いている。  いつからか、両親と弟の霊は現れなくなった。現れないと、それはそれで心配になる。  ちゃんと成仏できてるのだろうか? 前のアパートで地縛霊になっているんじゃないか? 「お父さんには僕がついているから、もう心配しないでいいよって言ったんだ」  ある時、真守が言った。 「えっ? あいつらにか?」 「うん。それで安心して成仏したんじゃない?」  心配してるつもりで、心配されている。それが親子というもんなんだろう。  黒石は今夜も繁華街で客を拾う。 「!」  水商売の女が、二人の男の霊を両側に憑けて乗ってきた。 <了>
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