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2. タクシードライバー
十年後。
あの男、黒石進は、夜勤専門のタクシードライバーになっていた。
夜眠るのが怖いなら、夜働いて昼間に眠ればいい、そんな単純な理由だった。天涯孤独、家族もいないから、働き方は自由だ。
その夜も黒石は終電が終わる頃、忘年会帰りなのかほろ酔い加減の男性客を拾った。
「!」
黒石はぎょっとして二度見した。客は女を、いや女の霊を連れていた。
黒石は十代半ばから霊が見えるようになった。
昼間は余程強い思念を持った霊以外気付かないが、夜ははっきりと見ることができた。
その客が乗り込むと、女の霊がいつの間にか客の奥に乗り込んでいる。
客に行き先を指定されて車を発進させる。ちらっと後ろを見るが、客はまったく気付いている様子はない。女の霊は客の横に座り、ただ恨めしそうに男を見つめていた。
これまでも霊を、いや霊を憑けた客を乗せることはあった。すると必ず翌日から数日間、高熱が出て寝込んでしまい、商売上がったりになった。
それで霊を乗せた次の日は、朝一番で神社に行きお祓いを受けるのが習慣になっていた。
そんな苦労をしてまでなぜ夜働くのか?
夜寝るのが怖い黒石にとって、これが最善の方法だと思えた。知らない霊の方がまだましだった。
狭い空間の中で客と他愛ない話をし、一時を共有する。深い付き合いはごめんだが、まったくの孤独も寂しいと感じる黒石にとって、最適の仕事に思えた。
後ろの客は自分が憑かれていることに気づいていないようで、嬉しそうに幼い娘の話をしている。つい、客と霊との関係を考えてしまうが、さすがに事実を告げて幸せに水を差すわけにもいかない。当たり障りのない返事をしながら目的地まで運転し、小綺麗なマンションの前で車を停めた。
料金を受け取りドアを開けると、客が降りたあと女の霊も降りようとしたのでそのまま待ち、霊が降りたのを確認してドアを閉めた。
黒石はふうっと息を吐き車を発進しようとして、マンションとは反対側からの視線に気づく。運転席の窓からそちらに目をやって、息を呑む。
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