ただ愛しい

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久東くんと俺は同じA組で、真緒はふたつ隣のC組。 なにかあったら駆けつけるとは言われてるけど、真緒に頼りきりなのも情けないんだよな。 そしてなにかがあっても困る。 更に言うなら教室で怖いのは久東くん以上に、クラスの女子達の視線。 また橘寧緒だよ。 目がそう言ってるのがわかる。 久東くんが怒るから女子達は口に出さないけど、鋭い視線が突き刺さる。 久東くんが俺のそばにいるようになった初めの頃は直接文句を言ってきた女子もいたけど、まあ久東くんが許すわけがなく…って俺もその時は彼がそういう性格だとは知らなかったんだけど、相手が泣き出してもまだ言葉の刃は止まらなかった。 だからみんなもう直接なにかを言ったりはしないけれど、気に入らないものは気に入らないんだろう。 これが真緒だったら『気に入らない事があるならはっきり言えば?』くらいの事、言いそう。 ちらっと教室の端で溜まっている女子達を見たら目が合ってしまった。 「寧緒、余所見すんな」 「え?」 「俺だけ見てろ」 「……」 そう言われても…。 ていうか恋人でもないのに、久東くんってさらっとこういう事言うからな。 やっぱり言い慣れてるのかも。 時計を見ると予鈴までまだ少し時間がある。 ひとつ深呼吸。 「…久東くんはなんで俺なの?」 ちょっと声が震えてしまった。 気持ちに応える応えないは別として、聞いておきたい。 だって俺を好きになる理由が全くわからない。 真緒を好きって言うならわかるんだけど。 「可愛いから」 「え」 「守りたいから」 「……」 「そばにいたいから」 「あの…」 「抱き締めたい」 「久東くん…」 「キスしたい」 「…もういいから…」 恥ずかしい。 顔がすごく熱くなってくる。 逃げようとしたら久東くんが俺の手を取った。 「…抱きたい」 「!!!」 どきどきし過ぎて呼吸が苦しくなってくる。 膝がかたかた震え始めて、そのまま座り込みそうな俺の様子を見て久東くんは、にや、と笑う。 「聞きたがったのは寧緒だからな」 「…っ」 手を離してもらおうと引くけれど離してくれない。 ぎゅっと手を握られて逆に引っ張られた。 「…今日の帰り、俺んち来いよ」 「え」 「もちろん弟抜きで」 「……」 それはさっき言ってたみたいに“既成事実”のためだったりするのかな…。 でもそう聞いたらさすがに怒るかも。 怒られなくても聞く勇気なんてないけどさ。 「沈黙は了解と取る」 「いや、あの…待って」 「もう遅い。約束したからな」 手を離されて、とん、と身体を押される。 そのまま、ととと…と自分の席へと歩き出してから久東くんを振り返る。 「楽しみにしてろ」 あれ。 俺が楽しみにしてるの? でもそんな言い方する割には久東くんのほうが嬉しそうな顔してる。 だけどどうしよう。 真緒に黙って行くわけにはいかないし、ついて来てもらったら久東くん絶対怒るよな。 正直に言うか…。 すごい顔するだろうな。
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