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支配人室に戻り、溜め息をつきながらパソコン作業をする。
スタッフから仕事に入りたい日の希望がメールで届いているのでそれを確認していたら開成が戻って来た。
「お疲れさま」
「忍も、お疲れさま」
なんだか声が沈んでいるけれど、なにかあったのかな。パソコンから顔を上げて開成を見ると、すごく寂しそうな顔をしている。
「開成?」
「……吉村さんとなにしてたの?」
「えっと……」
「なにか言われた? 忍、大きい声出してた」
「……」
まさか開成の悪口を言われて言い返したとは言えない。どうしようか考えていると、開成に抱きしめられた。
俺が抱きしめたかったんだけどな、と思いながら背に腕を回そうか悩んでいたら、首に顔をうずめられ、皮膚を軽く吸われた。小さな痛みの後、顔を離した開成は満足そうに笑む。
「これでいい」
「……なに?」
「俺のもの」
「……」
「絶対隠しちゃだめ」
心がそわっとする、けど……。
「……付き合ってるわけじゃないのに」
俺の言葉に開成が固まって、それから眉を顰める。この表情はなんだ。
「俺達、付き合ってないの?」
「え?」
「じゃあ俺って忍のセフレ?」
「!?」
セフレ!? ……ってなに!? いや、言葉は知ってるけど、俺と開成が? え……は?
いやいやいやいや!
「ちがっ……いや、開成!?」
「……」
慌てる俺の顔をじっと見て。
「……わかった」
なにが!?
わけがわからないままの俺を無視して、開成は身体を離してデスクでパソコンに向かう。
怒ったんだろうか。
室内を沈黙が支配したまま、夜になってしまった。途中で開成がミーティングに行ったときに「行ってくる」と言っただけ。
「送ってく」
硬い声にちょっとびくりとしてしまう。どうしよう、あまり送ってもらいたくない。
「電車で帰れる」
最後のメールを送信し終えてからパソコンを閉じる。荷物を片づけていたら、近づいてきた開成に腕を掴まれた。
「送ってく」
「……」
断れない、か。
気まずいまま二人でホテルを出た。
「……」
「……」
やっぱり会話はない。運転する開成の横顔を盗み見ると、視線が鋭くて怖い。怒っているんだろうな……。
俯いたままでいると車が停まった。信号かと思ったら、開成がシートベルトを外した。
「降りて」
言われるままに車を降りる。見るとどこかの屋内駐車場だった。
「開成……?」
「……」
手を掴まれ、引っ張られてエレベータに乗る。どこだ、ここ。階数ボタンを見ると、マンションのようだ。エレベータを降り、開成は俺の手を離さずにまっすぐ進んでいく。
「脱いで」
着いた一室に押し込まれ、そのままベッドのある部屋に連れて行かれて冷たくそう言われた。
「……え?」
思わず聞き返してしまう。開成はジャケットを脱いで、ベッドの脇の一人掛けソファに置く。ここは、開成の自宅……?
「脱いでって言ったの、聞こえない?」
手が伸びてきてジャケットを脱がされ、ネクタイを外された。されるままになっていたけれど、はっとして抵抗する。
「やだ、なんで……っ」
「『なんで』ってどういうこと?」
「え……?」
「俺と忍はセフレなんでしょ? それなら抱かせてよ」
ベルトを外され、スラックスのファスナーを下ろされる。
「セフレって……」
固まったままでいたらホックを外されてスラックスが床に落ちる。下着を脱がされそうになって抵抗すると、開成が自分のネクタイを外し、それで俺の両手首をまとめて縛った。ベッドに転がされ、シャツのボタンを外される。
脚をばたつかせても簡単に下着を取り去られ、俺の脚の間に身体を入れた開成に胸の突起をねぶられながら昂りを握られたら怖くなった。
「おとなしくしたほうがいい」
「やだ……やめろ……!」
「昼間はもっとして欲しそうだったよ」
ゆるゆると、俺が好む触り方をされると嫌でも身体が反応する。硬くなっていく昂りに開成は笑む。
「ほら、やっぱりして欲しいんでしょ」
「ちがっ……あっ!」
「ここは一昨日の朝に触ったのが最後だね」
後孔を指でなぞられ、腰が跳ねる。まさか本気でこのままする気か。そう思ったのと、指が中に滑り込んできたのは同時だった。内壁を探られ、弱い部分を探し当てた開成はそこを責める。
「ああっ……やだ、なんで……っ! あっ!」
馬鹿みたいだ。こんなの嫌なのに、相手が開成なら受け入れたい自分が心の奥にいる。
唇を重ねられて、縛られた両手で開成の身体を押しのけようとしたら、その手をベッドに押さえつけられて動けなくなった。それなら、と脚を動かそうとしたら脚の上に体重をかけられる。その体勢で後孔をほぐされていく。
……開成が怒っている。
今の状況とか、自分がされていることより、その感情が眼前の男の心に燃えていることのほうがつらかった。
両手の自由がなくて、零れる涙を拭えない。
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